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上の記事では気体の温度圧力補正について紹介しましたが、今回は蒸気流量の補正について説明します。蒸気流量の補正は気体と比べて少し複雑になります。
蒸気流量の補正式
蒸気流量の補正式は下記のとおりです。ちなみに以下の補正式は差圧式流量計(オリフィスやフローノズルなど)の場合です。渦流量計は後述します。
W1 : 補正後流量 (kg/h)
W0 : 補正前流量 (kg/h)
ρ1 : 実際の蒸気密度 (kg/m3)
ρ0 : 設計密度 (kg/m3)
流量の単位が質量流量であることに注意してください。質量流量なのでρ1が分子、ρ0が分母になっています。同じ体積流量でも密度が大きいほど質量が大きくなります。密度の求め方については下記の通りです。
飽和蒸気の場合
飽和蒸気の密度については、飽和圧力(MPa)または温度(℃)が決まれば一意的に蒸気密度が決まります。蒸気表を見れば圧力、温度いくらで密度がいくらなのかがわかります。設計時における設計密度はこの蒸気表から求めます。「圧力が〇〇MPaなので飽和蒸気密度は〇〇kg/m3」という感じです。
次に、実際に測定している飽和蒸気の密度を求める場合、これも同じように蒸気表から求めます。ただ違うのは圧力や温度は固定値ではなくリアルタイムの測定値である点です。したがって、実際の蒸気密度を求める場合、圧力・温度の測定値を用いてDCSの演算によって蒸気密度を計算します。蒸気表を基に折れ線関数を用意して、それを用いて蒸気密度を演算します。
飽和蒸気流量の補正計算例
補正前流量:2000 kg/h
基準圧力:3.8 MPa → ρ0 = 19.58 kg/m3(蒸気表より)
実際の圧力:3.7 MPa → ρ1 = 19.05 kg/m3(蒸気表より)
過熱蒸気の場合
過熱蒸気の密度補正に関して、2種類の補正方法について紹介します。「折れ線を使った簡易的な補正方法」と「実際に蒸気密度を計算する方法」の2種類があります。
飽和蒸気の場合、圧力か温度で蒸気密度が一意的に決まるので折れ線グラフ1個作れば密度を求めることができますが、過熱蒸気の密度に関してはややこしくなります。というのも過熱蒸気の物性値は一意的に理論値を計算できるものではないからです。エクセルのセルに入力して計算できるようなものではありません。過熱蒸気の物性値は元々、実験結果により得られたものです。
折れ線により簡易的に求める方法
1つ目は折れ線を2つ使った簡易的な補正方法です。「基準圧力における温度が変化したときの密度」「基準温度における圧力が変化したときの密度」で2つの折れ線を作って以下のように補正をするやり方です。
W1 : 補正後流量 (kg/h)
W0 : 補正前流量 (kg/h)
ρ0 : 設計密度 (kg/m3) (=基準圧力、基準温度における密度)
第2項が「温度変化に対する補正係数」、第3項が「圧力変化に対する補正係数」です。2つの組み合わせで密度補正を行っています。
蒸気密度プログラムにより密度を求めて補正する方法
普通に流量測定する分であれば上の簡易的な補正でも特に問題ないとは思いますが、もっと正確に蒸気密度を求めたい場合、蒸気密度演算プログラムを作って測定圧力と温度から蒸気密度を演算して補正をするやり方もあります。蒸気の物性値に関する基準として実用国際状態式(IAPWS-97)というものがあります。
IAPWS R7-97(2012): IAPWS-IF97 Industrial Formulation for Thermodynamic Properties of Water and Steam
リンク先の文献(PDF)を参考に密度演算プログラムを作成すれば一応、圧力・温度から計算で過熱蒸気を求めることは可能です。ただ、資料を見ればわかりますが、これを元に自前でプログラムを作成しようとするとめちゃくちゃ複雑なものになります。自作の演算プログラムのコードにミスがあると致命的なので、実際の運用は折れ線補正でやるほうがシンプルで無難だと思います。
流量計の種類によっては以下のアズビルの渦流量計のように、圧力センサと温度センサを内蔵し蒸気密度演算機能を搭載した流量計もあります。
渦流量計の密度補正
以上の補正式は差圧式流量計の場合です。もし、渦流量計(差圧式でない流量計)で測定した蒸気流量に対して補正をする場合は上の式から√を外せばOKです。補正係数は単純に設計密度と実際の密度の比になります。
W1 : 補正後流量 (kg/h)
W0 : 補正前流量 (kg/h)
ρ1 : 実際の蒸気密度 (kg/m3)
ρ0 : 設計密度 (kg/m3)
まとめ
- 蒸気流量の測定は設計密度と実際の密度の比で補正を行う。
- 蒸気の密度は蒸気表から取得する。
- 飽和蒸気の密度は圧力か温度で求められる。
- 過熱蒸気の密度補正は2つの折れ線を用いて補正を行う簡易的な方法と、密度演算プログラムを用いる方法の2通りがある。
以上が蒸気流量の密度補正でした。蒸気表や蒸気の物性値に関しては化学系、プロセス系の分野と思われがちですが、計装エンジニアも知っておくべき知識と思います。
【参考リンク】
計装Cube:流量計選定ナビガイダンス:工業技術社