単独運転検出装置とは?受動的方式、能動的方式について

系統と連系し逆潮流のある発電設備では単独運転検出装置が設置されています。系統連系保護装置の1つである単独運転検出装置について解説します。

単独運転とは?

単独運転とは、系統電源から切り離された配電系統に対して、分散型電源(発電設備)から電力が送られている状態のことを指します。イメージを以下に示します。

f:id:k0matty:20220326105312p:plain

通常、電力系統で事故が発生すると電力会社の遮断器が開放されて事故点の配電線は停電状態となります。しかし、もし配電系統に発電設備が存在し、連系中であった場合は配電線は通電状態のままとなります。本来停電しているはずの箇所が通電状態となっているので非常に危険な状態です。この状態を単独運転と言います。単独運転状態は復旧作業者の感電事故や短絡による火災の原因となり得ます。

単独運転が発生すると連系している発電設備はすみやかに解列しなければなりません。単独運転を検出し、遮断器にトリップ信号を送るのが単独運転検出装置です。

ちなみに単独運転とよく混同されるのが自立運転という言葉です。

自立運転とは?単独運転との違い

自立運転とは発電設備を系統から解列し、発電機だけで所内設備の負荷を賄っている状態のことを言います。イメージを以下に示します。

f:id:k0matty:20220326121341p:plain

例えば系統が停電中だったり、台風で系統のトラブルが起こりそうなときに連系の遮断器を開放して自立運転を行います。

単独運転検出装置については「単独運転になったら遮断器を開放して自立運転状態にする」と理解すればOKです。

単独運転検出装置の種類

単独運転検出装置の検出方式について主に以下の種類があります。(系統連系規程より参照)

  • 無効電力変動方式
  • 無効電力補償方式
  • QCモード周波数シフト方式
  • 負荷変動方式
  • 次数間高調波注入方式

今回は無効電力変動方式について解説します。

単独運転検出装置の動作(無効電力変動方式)

動作の概要と図を以下に示します。無効電力変動方式では単独運転移行後の周波数変動を検出します。

  1. 電力系統で事故が発生。
  2. 配電用変電所の遮断器により事故点区間切り離し→単独運転状態が発生。
  3. 単独運転検出装置が周波数の変動をキャッチし、単独運転を検出。
  4. 連系遮断器をトリップさせて発電設備を系統から解列する。→自立運転

f:id:k0matty:20220326134117p:plain

単独運転検出装置のイメージ

動作原理

単独運転検出装置には受動的方式能動的方式の2種類の検出装置が備わっています。無効電力変動方式の受動と能動の働きについて解説します。

受動的方式

受動的方式は単純に周波数の変動を見ています。やっていることは周波数リレーと同じです。単独運転が発生し、電力バランス(発電機の出力と負荷のバランス)が崩れると周波数に変動が起こります。周波数変動の例を以下で説明します。

例えば、発電機が 5000 kW で発電していて、所内で 1000 kW 消費して、系統に 4000 kW 送電している場合↓

f:id:k0matty:20220326132007p:plain

事故発生前(発電機出力5000kW)

このとき、系統側で以下のような事故が発生すると電力会社の遮断器が開放されます。以下の図の通り、送電電力は 2000 kW となります。所内負荷1000 kWと合わせて発電機出力は 3000 kWです。

f:id:k0matty:20220326132244p:plain

事故発生後(発電機出力3000kW)

タービン発電機の速度調定率が 5 %、周波数が 60 Hz だったとすると事故発生後(単独運転移行後)の周波数は速度調定率の計算式で求められます。

 R = \dfrac{\frac{f_{2} - f_{1}}{f_{1}}}{\frac{P_{1} - P_{2}}{P_{1}}} \times 100
R:速度調定率 [%]
f1, P1:負荷変化前の周波数 [Hz]、有効電力 [kW]
f2, P2:負荷変化後の周波数 [Hz]、有効電力 [kW]

 5 = \dfrac{\frac{f_{2} - 60}{60}}{\frac{5000 - 3000}{5000}} \times 100
 f_{2} = 61.2 \, \lbrack \mathrm {Hz} \rbrack

以上より、単独運転になった瞬間、周波数は 60 Hz から 61.2 Hz に上昇します。受動的方式ではこの周波数の変動を検知します。

ただし、実際は単独運転検出装置が動作するより先に周波数リレー(OFR、UFR)が動作する場合もあります。または電圧変動によりOVR、UVRの保護リレーが働く場合もあります。単独運転検出装置の受動的方式はあくまでバックアップ的な役割となります。

能動的方式

電力のバランスが崩れると周波数が変動すると説明しました。では、バランスが崩れない場合はどうなるでしょうか?その場合、周波数は変動しません。

発電機が 5000 kW で発電していて、以下の図のような場合。このときは事故が発生して系統の遮断器が開放されても、発電機の出力は 5000 kWのままで変動しません。周波数は 60 Hz のままです。

f:id:k0matty:20220326135140p:plain

周波数が変動しないケース

この場合、受動的方式では検出が出来ないので能動的方式が検出を行います。単独運転検出装置のミソはこの能動的方式にあります。能動的方式のイメージを以下に示します。

f:id:k0matty:20220326142740p:plain

能動的方式の動作原理

図に示すとおり、単独運転検出装置から同期発電機のAVRに対して常時、外乱信号が周期的に与えられています。AVRに外乱を加えることで意図的に無効電力を変動させています。これによる周波数の変化量について、通常の系統連系時は変化量は小さいですが、単独運転に移行すると周波数の変化量が増幅されます。この周波数の変化量が検出レベルを超えると保護リレーが動作し、遮断器をトリップさせて解列します。

なんで単独運転に移行したら周波数の変化が大きくなるのかは正直私も理解できていません(笑) メーカーの文献には書いてあるのかもしれませんが。「同期発電機のAVRに常に外乱が与えられていて、単独運転に移行すると周波数変化量が増加する」とだけ私は理解しています。

整定値について

能動的方式の整定値の決定については、系統のインピーダンスや同期発電機の定数など様々なパラメータが必要です。それらの数字をもとにシミュレーションを行い、検出レベルと検出時限を決定します。実際には、単独運転検出装置メーカーに必要な情報を渡して整定値の検討をしてもらいます。系統連系に関わる話なのでもちろん電力会社との協議も必要です。

まとめ

  • 単独運転=本来停電しているはずの配電系統に対して発電設備・分散型電源から電力が送られている状態。感電の危険性あり非常に危険な状態。
  • 自立運転=所内の負荷を発電機だけで賄っている状態。系統とは解列している。
  • 単独運転検出装置では受動的方式、能動的方式の2種類で保護を行う。

参考文献

「系統連系規程」 JEAC9701-2019