差圧式流量計のローカット機能、ゼロ点誤差について

差圧式流量計はプラントの流量測定において最もポピュラーな流量計です。しかしながら差圧式流量計はレンジアビリティが小さく、測定範囲の下のほうでは誤差が大きくなる性質があります。今回は、流量用差圧伝送器のローカットの目的やゼロ点誤差について説明します。

差圧式伝送器のローカット機能

流量用の差圧伝送器にはデフォルトでローカット機能が有効になっています。ローカット機能とは、設定値以下で流量の出力信号がゼロ(4 mA、0%)となる機能です。なぜこのような機能が搭載されているのでしょうか?その理由を一言で言うなら、差圧式流量計は測定範囲の下のほうは誤差が大きいからです。

差圧式流量計における差圧と流量の関係

ご存知の通り、ベルヌーイの定理より差圧式伝送器で計測される差圧は流量の2乗に比例します。なので流量用の差圧式伝送器では開閉演算処理を行います。差圧伝送器で得られた差圧ΔPは開閉演算処理されて流量信号としてDCSに入力されます。

差圧と流量の関係を以下のグラフに示します。

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パッと見、なんてことないと思われるかもしれませんが、レンジの下のほうのところ、特にゼロ付近では信号の増幅率が非常に大きくなっています。例えば、差圧の0~1%における流量の値は以下の通りとなります。

差圧信号ΔP (%) 流量信号 (%)
0.0% 0.0%
0.1% 3.2%
0.2% 4.5%
0.3% 5.5%
0.4% 6.3%
0.5% 7.1%
0.6% 7.7%
0.7% 8.4%
0.8% 8.9%
0.9% 9.5%
1.0% 10.0%

これが示すのは、ローカットを設けないと 0.1%の僅かな差圧によって 3%の流量が出力されてしまうということです。信号の増幅率が大きいということは測定誤差も増幅されてしまうということです。

そのため、流量測定用の差圧伝送器では、デフォルトの設定としてローカットが設けられています。以下はローカット設定値を流量10%(差圧1%)としたときのグラフです。差圧1%以下での流量指示をゼロとすることで流量誤差が発生しないようにしています。

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メーカーにもよりますがデフォルトの設定は10%や7.07%が多いです。流量の7.07%は差圧に直すと 0.5%です。1%や 0.5%以下の差圧は流量ゼロとして演算処理しています。

差圧式流量計のゼロ点誤差

差圧伝送器の測定誤差の主な要因としては、流量計の取付不良以外では以下の2つが考えられます。

  • コンデンスポットの水位による誤差
  • 差圧伝送器に起因する測定誤差

1つ目についてのイメージ図を以下に示します。例えば、高圧側と低圧側のコンデンスポット内の凝縮水レベルの差が10 mmずれると、それによって生じる差圧は ΔP = ρgh ≒ 0.1 kPaとなります。

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仮に差圧伝送器のレンジが0~50 kPaだったとすると、0.1 kPaはレンジの0.2%となります。ローカットしない場合、4.5%の流量誤差を指示してしまいます。

ローカット設定を無効にしたときのトラブル事例

ローカットを無効にすると、例えばプラント停止中で流量がゼロなはずなのに流量指示が出ているとかいうことが起こります。特に、DCSで流量が積算されていると「プラント停止中なのに帳票には〇〇トンの蒸気流量が出ている!」みたいなことが起こります。

低流量も測定したいときの対策

渦流量計を採用する。

差圧式流量計のレンジアビリティは5:1程度ですが、渦流量計はレンジアビリティが25:1と大きく、差圧式に比べて幅広い範囲で測定が可能です。ただし、振動の激しい場所や高温流体(450℃以上)には使用できません。

差圧伝送器を2台設置する。

差圧伝送器に起因する誤差の対策として、2台の差圧伝送器を設置する方法があります。2個の信号を利用し、DCSでの演算によって流量を測るやり方です。イメージを以下に示します(数字は適当)。折れ線関数とハイセレクタを使って2つの流量計から1つの流量値を作ります。

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この方法は差圧伝送器の精度に起因する誤差は抑えることが出来ますが、上で述べたコンデンスポットや導圧配管で生じる誤差はそのまま流量指示に表れます(精度よく差圧を測れるというだけなので)。この対策として、オリフィスの目盛差圧を大きくして相対的に誤差を小さくすることは出来ます。しかし差圧を大きくしようとすると今度はプロセス上の問題やオリフィスプレート製作条件の制約も出てきます。

プロセス条件の最大流量と最小流量がかけ離れている場合は、差圧式流量計では限界があるので、渦流量計が採用できるならそうするのが一番無難だと思います。また、差圧式流量計も渦流量計もNGな場合は、そもそもの配管設計を見直すのも一つの手だと思います。

まとめ

  • 流量用差圧伝送器にはローカット機能がある。ローカットの設定はデフォルトで流量10%や7%が一般的。
  • ローカットしないと差圧の測定誤差によって大きな流量誤差が発生する。
  • コンデンスポットの凝縮水レベルの差が誤差の要因になり得る。
  • 最大流量と最小流量がかけ離れていて差圧式流量計がNGの場合は、渦流量計を検討する。

参考文献、参考サイト