代表的な産業用イーサネットをざっくりと理解する

国内外で普及している代表的な産業用イーサネットについて整理してみます。技術的なネットワークの仕組みは省いて、ざっくりとしたイメージで理解できるように今回記事を書きました。

CC-Link IEはCC-Linkの産業用イーサネットと考えればよいです。三菱電機が推している産業用イーサネットです。三菱電機のPLCで制御ネットワークを構築する場合はほぼ一択でCC-Link IEになります。CC-Link IEには主に以下の種類があります。その他もありますが、ここでは以下の3種類を挙げます。

  • CC-Link IE Control
  • CC-Link IE Field
  • CC-Link IE TSN

CC-Link IE ControlはPLC間ネットワーク向けの産業用イーサネットです。PLC同士の接続には光ファイバーケーブルが使われます。最大局間距離は550mです。光ケーブルはノイズに強く信頼性が高いです。またループ状にネットワークを接続するので断線時および中継局の故障時にも通信を継続することができます。CC-Link IE Controlは大容量・高速の通信が可能で、かつ信頼性に強みがあるのが特徴です。CC-Link IE Controlに関しては、CC-Linkの進化版というよりはMELSECNET/Hの進化版と考えればよいです。

CC-Link IE Controlは当初、光ケーブルだけでしたが、今はEthernetケーブル(いわゆるLANケーブル)のタイプも存在します。

CC-Link IE Controlネットワーク内のPLCは管理局、通常局と呼ばれます。

CC-Link IE Fieldはフィールドネットワーク向けです。フィールドネットワークとは、フィールド機器が繋がっているネットワークのことです。ここで言うフィールド機器とはリモートI/OやGOT、インバータなどの機器のことを言います。それらの機器とPLCをEthernetケーブルで繋げるイメージです。RS-485ベースのCC-Linkを使ったことがある人ならCC-Link IE Fieldはそれと同じ感じで使えます。

また、フィールド機器だけではなくPLC同士の通信も可能です。CC-Link IE FieldではPLCの各局はマスター局、ローカル局と呼ばれます。

ケーブルは汎用のLANケーブルが使えますが、Cat 5e以上の二重シールドSTPケーブルが推奨されます。最大局間距離は100mです。長距離の通信を行いたい場合はEthertnetスイッチで中継したり、メディアコンバーターで光ケーブルに変換する必要があります。

CC-Link IE Fieldのトポロジーはライン型、スター型、リング型です。自由自在にネットワークを構成できるのが大きな特徴です。通信できる最大リンク点数はCC-Link IE Controlに比べると劣ります。多数のPLCで信頼性の高いネットワークを構成したい場合は前述のCC-Link IE Controlを選定するのがベターと思います。

CC-Link IE TSNは2019年頃に登場した比較的新しい通信規格です。CC-Link IE TSN登場以前はPLCネットワークはCC-Link IE Control、フィールドネットワークはCC-Link IE Fieldという使いわけでしたが、CC-Link IE TSNではそういった区別がなくなりました。ネットワークユニットは光ケーブルタイプとEthernetケーブルタイプの2種類があります。信頼性の高いPLCネットワークを構築したい場合はCC-Link Controlと同様に光ケーブルを選ぶのがベターです。CC-Link IE TSNの主な特徴は以下の通りです。

  • 制御ネットワークと情報ネットワークの混在が出来る。
  • 高速、高精度な同期制御が可能。

1つ目は制御ネットワーク(CC-Link IE)と情報ネットワーク(TCP/IP通信=汎用Ethernet)を融合を意味します。従来は制御系(FA)と情報系(IT)のネットワークは区別されていましたが、FAとITを融合させてシームレスにすることでデータの活用やスマートファクトリーの実現に繋がる、というのがCC-Link IE TSNの売りのようです。ただし、制御ネットワークとTCP/IP通信との混在はPROFINETやEtherNet/IPでも出来ます。

2つ目はTSN(Time-Sensitive Networking)技術のことで、マイクロ秒以下の精度で時刻同期が実現ができるらしいですが、自分はFAではなくプラントの人間なのでその凄さがよくわかりません。一般的なPLCユーザーにとってオーバースペックな印象は否めません。

PROFINET

PROFINETはシーメンスによって開発された産業用イーサネットの通信規格です。PROFINETはPROFIBUSの産業用イーサネット版という感じです。PROFIBUSとは世界で最も普及しているフィールドバスの通信規格で、CC-Linkのようなものです。PROFIBUSとPROFINETの関係は、CC-LinkとCC-Link IEのようなものと考えれば理解しやすいです。PROFINETはシーメンスが推進してきた歴史もあり、特にヨーロッパで普及しています。PROFINET対応のEthernetケーブルは緑色なのが特徴です。PROFIBUSケーブルが紫色で、PROFINETが緑色なのでパッと見で判別が付きます。

EtherNet/IP

EtherNet/IPはRockwell Automationによって開発された通信規格です。現在はODVAによって管理されています。ロックウェルは米国のメーカー、ODVAは米国の団体なのでEtherNet/IPは特に米国で普及しています。日本国内においてもオムロンキーエンスのPLCではよくEtherNet/IPが使われます。

FL-net

FL-netは日本電機工業会(JEMA)によって開発された通信規格です。昔はどのPLCメーカーも独自の通信規格を持っていて他社PLCとネットワークを構成することが出来ませんでした。その課題を解決するために、メーカーが異なるPLCでも接続できる通信規格が国内大手PLCメーカー共同で開発されました。1990年代に日本自動車工業会(JAMA)の提案からスタートした経緯もあってFL-netは自動差産業のFA分野で普及してきました。

ただし今は三菱、オムロンキーエンスなど大手メーカーではEtherNet/IPが使えるので、FL-netを使うケースは正直あまりないです。FL-netを採用するケースとしては、富士電機や日立のPLCを他社PLCと通信したい場合でしょうか。

FL-netは日本独自の規格なので、今後の将来性は正直見込めません。実際、トヨタでもこれまで工場のネットワーク規格としてFL-netを標準で使ってきましたが今ではEtherCATがトヨタの標準仕様となっています。

まとめ

世界的なシェアで見れば産業用イーサネットEtherNet/IPとPROFINETの2強です。CC-Link IEは日本国内+アジアの一部だけですね。三菱なのでしょうがないです。あとEtherCATも取り上げたかったのですが、個人的に経験がないので今回はパスします。

www.automation-news.jp

地域別のシェアは以下のようなイメージです。

日本:CC-Link IE
米国:EtherNet/IP
欧州:PROFINET

それぞれに技術的な特徴や違いは存在しますが、実際はそれらを考慮してネットワーク規格を選定することはなくて、採用するPLCによっておのずと決まるのがほとんどです。こんなことを言うとネットワークの専門家から叱られるかもしれませんが、MELSECならCC-Link IEシーメンスならPROFINETくらいの認識で特に問題ないと思います。考える必要が出てくるのは異なるメーカーのPLCでネットワークを構成するときでしょうか。

参考サイト

産業用イーサネットについてはキーエンスの解説ページが特に参考になります。

www.keyence.co.jp