変圧器の励磁突入電流による瞬時電圧低下とその対策

変圧器の励磁突入電流による瞬時電圧低下について解説します。

励磁突入電流とその影響

変圧器投入時には定格電流の6~10倍(またはそれ以上)の励磁突入電流が流れます。励磁突入電流による悪影響として、過電流継電器の不要動作のほか、高圧系統に瞬時電圧低下が発生するという問題点があります。この瞬時電圧低下は他のバンクや電力系統に悪影響を及ぼす可能性があります。

高圧受電設備規程(JEAC8011)においては、励磁突入電流によって生じる配電系統の瞬時電圧低下は常時電圧の10%以内とすることが求められ、10%を超える場合は励磁突入電流抑制対策が求められています。ただし、判定可否については実際には電力会社との協議になります。

変圧器投入時の瞬時電圧低下の計算例

計算条件(例)

  • 系統~受電点のインピーダンス  \% Z = j 20 \lbrack \% \rbrack
    ※ 簡略計算のため抵抗成分は今回無視する。
  • 変圧器の定格容量:750 kVA
  • 変圧器の励磁突入電流:定格電流の8倍と仮定
計算

瞬時電圧低下の計算には以下の式を使います。今回は単位法を用います。

\begin{align}
\Delta V &= RP + XQ
\end{align}

詳細は以下の記事を参照ください。電動機始動時の始動電流による電圧低下と考え方は同じです。

electrical-instrumentation.com

今回、系統インピーダンスの抵抗成分は無視するので  \Delta V = XQ とします。Xは系統のインピーダンスの値を使用します。無効電力Q [p.u.]がわかれば電圧降下を算出できます。計算手順は以下の通りです。

励磁突入電流が定格電流の8倍の場合、変圧器投入時の皮相電力は定格容量の8倍となる。

\begin{align}
S = 750 \times 8 = 6000  \lbrack \mathrm{kVA} \rbrack 
\end{align}

変圧器投入時は  \sin{\theta} \approx 1 と仮定する。つまり皮相電力=無効電力で考えればよい。基準容量 10MVAの単位法で表すと変圧器投入による無効電力は、

\begin{align}
Q = \dfrac{6000 \times 10^3}{10 \times 10^6} = 0.6 \lbrack \mathrm{p.u.} \rbrack 
\end{align}

となる。よって変圧器投入時の励磁突入電流による瞬時電圧低下は、

\begin{align}
\Delta V &= XQ \\ &= 0.2 \times 0.6 \\ &= 0.12 \,  \lbrack \mathrm{p.u.} \rbrack 
\end{align}

12%となり、基準の10%を超過するためNGとなる。

上記の計算例はあくまで概算値です。実際には、需要設備で変圧器を増設する際や容量をUPする際は電力会社に確認を取る必要があり、その回答内容によって可否が決定されます。電力系統の状況次第なところがありますが、1000~2000kVAのような大容量の変圧器を設置する際には特に注意が必要です。

励磁突入電流抑制対策

励磁突入電流を抑制する対策として最も有効な手段はエネセーバを採用することです。エネセーバとは、三菱電機製の励磁突入電流抑制開閉器のことを指します。三菱電機以外でも同様の開閉器は存在するらしいですが、業界的にはエネセーバが最もメジャーです。

www.mitsubishielectric.co.jp

詳しい動作原理は三菱電機のホームページやカタログを見てもらえればわかると思いますが、変圧器一次側の閉路動作にエネセーバを使用することにより変圧器投入時に発生する電流が十数A程度に抑制されます。励磁突入電流が大幅に抑制されるため、上位側との保護協調が取りやすくなるなどのメリットもあります。励突抑制の機能以外は、基本的にLBSと同じ構造です。

まとめ

励磁突入電流による瞬時電圧低下の計算例と、励突抑制(エネセーバ)について解説しました。励突対策の要否は電力会社と協議の上で決まるので、高圧変圧器を増設や更新をする際は電力会社に早い段階で確認を取ったほうがよいと考えます。受変電設備の設計が固まってから電力会社に問い合わせを行って、もしも励突対策を求められた場合、設計変更・コストアップとなってしまいます。