電動機始動時間の計算方法

電動機の始動時間の計算方法について説明します。始動時間とは「電動機の電源が投入されてから定格回転速度に到達するまでの時間」です。また、電動機の始動時間が長い場合の問題点、その対策も紹介します。

始動時間の計算式

始動時間  t (s) の計算式を以下に示します。

 t = \dfrac{GD^{2} \times n}{375 \times \overline{T_{a}}}

 GD^2: 電動機GD2と負荷GD2(電動機軸換算値)の合計値 (kgf・m2)
 n:定格回転速度 (rpm)
 \overline{T_{a}}:平均加速トルク (kgf・m)

慣性モーメントとGD2

慣性モーメントとは回転運動をする物体の慣性の大きさを表すものです。慣性モーメントが大きいほど、回転させにくくまた止めにくいです。巨大な車輪をイメージしてみるとわかりやすいと思います。小さい車輪は回転させやすく止めやすいですが、巨大な車輪は慣性が大きく回転させたり止めるのが大変ですよね。

慣性モーメントは一般的に J で表され、GD2ははずみ車効果と呼ばれます。2つは以下の関係がありますが、J は SI単位系、GD2 は重力単位系ということで、どちらも「回転しにくさ、止まりにくさ」を示すものです。

 J = \dfrac{GD^{2}}{4}

Jの単位は kg・m2 、GD2の単位は kgf・m2です。本来であればSI単位系である J を使うべきですが、従来の慣例でGD2が用いられることが多いので、今回の記事でもGD2を使っています。

上の始動時間の計算式で示されるように、GD2が大きい負荷ほど始動時間が長くなりますが、これはなんとなく理解できると思います。

慣性モーメントの大きい負荷としてはファンやブロワなどがあります(つまり送風機のこと)。電動機と負荷のGD2はデータシートや仕様書に書いてあります。「電動機軸換算値」とは負荷のGD2を電動機の回転速度に換算したものです。負荷側GD2を  GD^{2}_{L} 、負荷の回転速度を  n_{L} 、電動機の回転速度を  n_{M} とすると電動機軸換算値GD2は以下のようになります。

 GD^{2} =  GD^{2}_{L} \times \left( \dfrac{n_{L}}{n_{M}} \right) ^{2}

回転速度

同期速度nsと回転速度nの式を以下に示します。

 n_{s} = 120 \times \dfrac{f}{s}
 n = (1 - s) \times n_{s}
 f:電源周波数 (Hz)
 s:すべり

電源周波数が 60 Hz の場合、4Pモータの定格回転速度は 1800 rpm、2Pモータは 3600 rpmです。電動機の極数が少ないほど回転数は高くなり、始動時間も長くなります。

平均加速トルク

加速トルク=電動機トルク-負荷トルク です。平均加速トルクとは始動中の加速トルクの平均値のことです。トルクカーブの図を以下に示します。

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電動機の電源が投入され、加速トルクによって回転速度が上がっていって電動機トルク=負荷トルクとなったところで、加速トルクがゼロとなって始動完了となります。このポイント(電動機トルクカーブと負荷トルクカーブの交差点)を安定動作点と言います。

平均加速トルクは上のグラフの黄色の面積を求めて平均値を出せば理論的に計算できますが、概算式としては下記の通りです。

 \overline{T_{a}} = 0.8 \times \dfrac{T_s + T_m}{2} -  \overline{T_{L}}
 T_{s}:電動機の始動トルク (kgf・m)
 T_{m}:電動機の最大トルク (kgf・m)
 \overline{T_{L}}:平均負荷トルク (kgf・m)

平均負荷トルクの概算式を以下に示します。
 \overline{T_{L}} \fallingdotseq 0.34 \times T_{L}(送風機など、2乗低減トルク負荷の場合)
 \overline{T_{L}} \fallingdotseq T_{L}(コンベヤなど、定トルク負荷の場合)
 T_{L}:全負荷トルク (kgf・m)

始動時間が長い機械

以上より、GD2が大きく、回転速度が高い機器が始動時間が長くなるいうことがわかります。具体的な例としては2P電動機の送風機が始動時間が長くなりやすいです。始動時間が長い場合に発生する問題については以下で解説します。

始動時間が長いときの問題点

始動時間が長いときに発生するトラブルと対策を紹介します。

サーマルリレーの不要動作

始動時間が長い機器のよくあるトラブルとして、サーマルリレーの不要動作があります。長い時間、始動電流が流れてしまうために通常のサーマルリレーでは始動時にトリップしてしまうことがあります。対策としては以下の通りです。

  • 遅動形サーマルリレーを採用する。
  • 静止形リレーを採用し、動作時間を調整する。

慣性モーメントが大きい負荷については、電気設計の段階で電動機の始動時間を計算し、サーマルリレーの動作特性と照らし合わせ始動時に問題がないか確認するようにしましょう。事前に十分検討しておかないと現場の試運転中にサーマルリレーを取り替える羽目になります。。。

MCCBの不要動作

MCCBでもサーマルリレーと同様に始動時トリップの可能性があります。電動機の始動時にトリップしないか確認し、もし問題があればMCCBの定格電流を見直す必要があります。

スターデルタ始動の注意点

以上は直入れ始動の電動機の話でした。スターデルタ始動の場合は始動時のトルクが1/3となるため、加速トルク(電動機トルク-負荷トルク)が小さくなり、直入れ始動より始動時間が長くなります。また、電動機トルク<負荷トルクとなり始動途中でトルク不足・過負荷トリップが発生してしまうこともあります。スターデルタ始動を採用する場合は事前の設計段階で十分に検討する必要があります。

まとめ

  • 電動機の始動時間はGD2が大きいほど、回転速度が高いほど、加速トルクが小さいほど長くなる。
  • 加速トルク=電動機トルク-負荷トルク
  • 始動電流が長いと電動機始動時にサーマルリレーの不要動作が発生する。
  • 慣性モーメントが大きい送風機や、回転速度が高い2Pの電動機は始動時間の長さに要注意。
  • スターデルタ始動は始動トルクが小さく始動時間が長くなるので始動時に問題がないか検討する。

参考サイト