同期発電機の可能出力曲線と実際の運転範囲

同期発電機の可能出力曲線と実際の運転範囲について解説します。

可能出力曲線

同期発電機の可能出力曲線を以下に示します。横軸を無効電力に取りました。右側が遅相運転領域(過励磁運転)、左側が進相運転領域(低励磁運転)です。有効電力を横軸、無効電力を縦軸に取る図もありますが、意味は同じです。

色で示した太線が可能出力曲線です。曲線の内側が同期発電機が運転できる領域です。可能出力曲線の外側は運転禁止領域です。発電機は常に領域内で運転しなければなりません。それぞれの曲線は発電機各部の温度限度を示しています。それぞれの意味について説明します。

電機子巻線温度上昇限界

まず①青の曲線ですが、これは電機子電流(固定子電流=負荷電流)の限度を示します。曲線はP=0, Q=0の原点を中心とした円弧です。原点から円弧までの距離は定格皮相電力に相当します。つまり、曲線は皮相電力の出力限度、言い換えれば電機子電流(負荷電流)の上限を示します(端子電圧一定であれば)。運転点が曲線内側であれば電機子電流許容値の以下での運転である、よって運転可能という意味です。

①の曲線は定格力率(例えば遅れ0.85)から進相運転限界力率(例えば進み0.95)の範囲に適用されます。

界磁巻線温度上昇限界

②緑の曲線は界磁電流の限度を示します。遅相運転においては遅れ無効電力を供給するために界磁電流を大きくする必要があります。当然、界磁巻線温度が上昇します。その限度を超えないように発電機は②の曲線の左側で運転することが求められます。

②の曲線は同期機のベクトル図から理論的に求められます。円弧の中心は横軸上の左のほうにあります。詳細は省略しますが、P=0, Q=0の原点から円弧の中心までの距離は同期発電機の短絡比 [p.u.] に相当します。

固定子鉄心端部過熱限界

低励磁運転(進相運転)においては以下の問題が発生します。

  • 固定子鉄心端部の温度上昇
  • 端子電圧の低下
  • 定態安定度の低下

発電機の進相運転を考えたとき、1つ目の固定子鉄心端部の過熱が特に重要です。進相運転つまり界磁電流の小さい状況においては固定子鉄心端部で生じる磁束量が増加します。それによって生じる渦電流損により、固定子鉄心端部の温度が上昇します。固定子鉄心端部の過熱は最悪、発電機の損傷に繋がるおそれがあり、そのような運転は避けなければなりません。

①と②の曲線はある程度の時間的余裕が存在しますが(巻線を流れる電流が上限を少し超えたからと言って直ちに問題が起こることはない)、③は短時間であっても発電機損傷に繋がるリスクを有しています。よって、③の曲線に近づくことは非常に危険であり発電機の運用においては絶対に避けなければなりません。

実際の運転範囲

上で示した図は同期発電機が運転できる領域を示したカーブです。しかし実際の運転において運転可能領域の限界曲線に到達する前にリミッターによって運転が制限されます。言い換えれば、通常、同期発電機は可能出力曲線よりもさらに狭い領域で運転されます。その領域を以下に示します。

色で塗られた部分が、制限なしで同期発電機が運転できる領域です。出力制限、OEL、UELについて以下で説明します。

出力制限

発電機の最大有効電力は原動機(タービンやディーゼルエンジンなど)の出力によって制限が決まります。

例えば定格皮相電力1000kVA, 定格力率0.8, 定格出力800kWのディーゼル発電機で考えます。負荷の力率を1にすれば1000kWまで負荷運転できるかというと、ディーゼルエンジンの出力に制約があるためそれは実際には出来ません。

過励磁制限 (OEL)

遅相運転においては限界曲線(②の曲線)を超える過励磁運転とならないようにAVRには過励磁制限(OEL: Over Excitation Limit)というリミッター機能が存在します。

不足励磁制限 (UEL)

進相領域においても同様に、危険領域に到達しないようにAVRには不足励磁制限(UEL: Under Excitation Limit)というリミッターが存在します。前述の通り進相運転は非常に危険であるため、③の曲線に近付かないよう、ある程度のマージンを取ってリミッターをかけています。UELにより、発電機の運転動作ポイントがUELで設定された直線より左側に行くことはありません。

UELで制限されるところに到達するとAVRの電圧一定制御は放棄されて端子電圧は成り行きとなります。例えば過度の進相運転となった場合では以下のような挙動が予想されます。

進み負荷が増える→発電機(AVR)は界磁電流を減らそうとする→UELによって界磁電流が下限で制限される→それ以上誘導起電力を下げることができない→端子電圧を一定に維持できず端子電圧が上昇する。

固定子鉄心端部の過熱で最悪、発電機が壊れるよりは端子電圧が維持できなくなってトリップさせるのがマシということです。

ちなみにOELとUELの直線の設定はもちろん発電機によって異なります。同期発電機が供給し得る進み無効電力の最大値はUELの設定値によって決まります。

まとめ

同期発電機の可能出力曲線と実際の運転範囲について説明しました。同期機は界磁電流の大きさによって遅相運転も進相運転もできるという特徴がありますが、それには様々な制約があるということです。実際の運用においては可能出力曲線やAVRの制限機能によって運転可能な範囲は限られています。