質量-バネ-ダンパ系の振動モデルを電気回路に置き換えて理解する

今回は振動工学の話です。電気系の学生・エンジニア向けに質量-バネ-ダンパ系の振動モデルについて解説します。電気回路とのアナロジー(相似性)を用いてモデルの固有振動数を考えてみます。

質量-バネ-ダンパ系とは

以下の図で表される物理モデルのことを質量-バネ-ダンパ系 (Mass-spring-damper system)と言います。「マス・バネ・ダンパ系」とか「粘性減衰力を考慮した1自由度系」とも言います。

 m:質量、 k:ばね定数、 c:減衰係数、 f(t):外力、 x(t):変位)

質量 m、ばね定数 k、減衰係数 cの物体に振動数 \omegaの強制振動が加わっているイメージです。※今回は自由振動ではなく外力が存在する強制振動モデルを例としています。

運動方程式は以下で表されます。

 m \dfrac{d^2 x(t)}{dt^2}+  c \dfrac{dx(t)}{dt} + k x(t)  = f(t)

この図と方程式は制御工学のテキストの最初の方に必ず載っていると思います。でも正直、電気系や情報系の学生・エンジニアにとっては「で、何?」って感じなんですよね。微分方程式を解くと変位 x(t)がわかるってのは理解できるんですが「ふーん」っていう程度で。

そういう電気系の人間でもこの振動モデルの特性を一発で理解できる方法があります。それは電気回路に置き換えることです。質量-バネ-ダンパのシステムを馴染みのある電気回路として考えることで一気に理解が深まります。

電気回路に置き換えてみる

まず、変位 x(t)を速度 v(t)に置き換えてみます。速度と変位の関係は以下の通りです。

 v(t) =  \dfrac{dx(t)}{dt}

運動方程式を速度 v(t)で表してみると以下のようになります。

 m \dfrac{dv(t)}{dt}+  c v(t) + k \int v(t) dt  = f(t)

電気やってる人間がよく見るあの式に似てませんか?そうです、RLC直列回路です。

RLC直列回路

回路方程式:  R i(t) + L \dfrac{di(t)}{dt} + \dfrac{1}{C} \int i(t) dt = e(t)

今回取り上げた機械系の振動モデルと電気回路では以下の関係があります。

1自由度系の強制振動モデル等価回路

上の表の対応関係より、質量-バネ-ダンパ系の振動モデルの等価回路は以下のようになります。

回路方程式:  m \dfrac{dv(t)}{dt}+  c v(t) + k \int v(t) dt  = f(t)

質量-バネ-ダンパ系の固有振動数ω0

電気系にはお馴染みの共振周波数の式

 \omega_{0} = \sqrt{\dfrac{1}{LC}}

 L \rightarrow m, C \rightarrow \dfrac{1}{k} に置き換えると振動モデルの固有振動数は以下のようになります。

 \omega_{0} = \sqrt{\dfrac{k}{m}}

ちなみに電気系では共振周波数と言いますが、機械の分野では固有振動数と呼ぶことが多いです。意味はどちらも同じです。

共振時、つまり振動数 \omega = \omega_{0}のとき速度 v(t)の大きさが最大となります。共振時は電気的に言うとインピーダンスの虚部がゼロとなってインピーダンスは抵抗負荷と等価となります。したがって、共振時の速度 v(t)は以下の式となります。

 v(t) = \dfrac{f(t)}{c}

減衰が大きいほど振動が小さくなる。速度も加速度も変位も小さくなるってイメージです。

電気回路だと力率1に近づくと無効電力が小さくなって良い感じに思うかもしれませんが、機械設計では共振は避けるべきとされています。共振で振動が大きくなると設備や機械が壊れてしまうからです。したがって機器設計時には強制振動数と固有振動数が一致しないように注意する必要があります。具体例を挙げると温度計保護管、送風機の回転速度などです。

まとめ

機械系(力学系)と電気系のような相似性のことをアナロジーと言います。今回はアナロジーな関係を利用して強制振動モデルを電気回路で考えてみました。

他にも熱系、流体系、回転運動なども電気回路とアナロジーな関係にあります。電気系の人間であれば何でも電気回路に落とし込めば理解できるはず。

参考サイト

denki-no-shinzui.com