ボイラー主蒸気温度の制御手法

ボイラの主蒸気温度制御とは、第1過熱器(スーパーヒータ)を通った過熱蒸気へのスプレー注水量を調節弁で調整して、後ろの過熱器出口の主蒸気温度を目標値(=タービン主蒸気定格温度)となるように制御するものです。主蒸気温度制御は非線形があり、むだ時間の長い制御です。そのため、単純なPID制御ではPIDパラメータをチューニングしたとしてもうまく制御するのは非常に困難となっています。主蒸気温度制御はボイラ制御においても特に難しい問題と言えると思います。

スプレー注水については注水が1箇所の1段注水と、2箇所の2段注水がありますが、今回は1段注水のケースで説明します。

単純なフィードバック制御

基本のフィードバック制御の形を以下の図に示します。SH2出口の主蒸気温度測定値(TT-001)が所定の目標値となるように注水調節弁を操作します。プロセスのむだ時間が非常に長いので、実際制御するのはかなり難しいです。また、このような単純なフィードバック制御では外乱の発生にも影響を受けやすいです。

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カスケード制御

外乱に影響を抑えるためにカスケード制御としたのが下の図です。SH2出口温度計TT-001と主蒸気温度コントローラTIC-001を1次ループとし、DSH出口温度計TT-002とDSH出口温度コントローラTIC-002を2次ループとしています。SH2手前の温度変化にも対応できるので上で示した基本の形に比べて制御性が優れています。ただし、注意点としては、DSH出口温度が下がりすぎてしまって飽和温度以下とならないように注意する必要があります。飽和領域に入ってしまうと注水量を調整しても蒸気温度が変化しなくなってしまいます。

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蒸気温度低下対策

上記の対策としては、以下のようにTIC-002のSV値に下限値を設けるやり方があります。以下の図の例では、折れ線機能を使って、TIC-002のSV下限値を「飽和温度TT-003+***℃」(例えば+50℃とか+100℃とか)に設定します。TT-003はボイラドラムで発生した飽和蒸気の温度です。こうすることで蒸気温度が飽和領域に入るの防ぎます。この例では温度計TT-003の測定値を使って下限値を変化させていますが、代わりにTIC-002の設定で下限値(定数)を設けてもよいでしょう。

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ゲインスケジューリング

蒸気温度のプロセス非線形性を補償するやり方としては、ゲインスケジューリングという手法があります。図を以下に示します。TIC-001のゲインを可変として、主蒸気流量に応じてパラメータを変化させます。負荷(蒸気量)によって適切なパラメータは異なるので、こうすることでプロセスの非線形性を補償しています。

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フィードバック制御フィードフォワード制御

ゲインスケジューリングの代わりにフィードフォワード制御とするやり方もあります。以下の例では主蒸気流量の測定値をフィードフォワード要素としてTIC-001のMV値に可算しています。非線形性の補償という点ではゲインスケジューリングが優れていますが、応答性の点で言えばこちらにもメリットがあります。

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モデル予測制御

PID制御の代わりにモデル予測制御(MPC)を導入している例もあるようです。MPCを用いた主蒸気温度制御に関しては私は知識がないため割愛します。モデル予測制御については別の記事で紹介したいと思います。

まとめ

主蒸気温度制御の制御の例について紹介しました。制御手法としてカスケード制御、飽和温度対策、ゲインスケジューリング、フィードフォワード制御を紹介しました。実際の設計においてはそれぞれのメリット、デメリットを理解して、プラントの特性に合わせて適切な制御ループを設計します。ちなみに今回は1段注水のケースで説明しましたが、注水弁が2個存在する2段注水の場合は1個目と2個目の注水量のバランスも検討・考慮する必要があります。しかしながら基本の考え方は1段注水と変わりません。

参考文献