脱硝装置のNOx制御手法

脱硝装置の制御方法について解説します。

NOx除去の目的

火力発電プラントなどのボイラーの燃焼排ガスには NOx、SOx、ばいじん等が含まれています。いずれも排出基準値が大気汚染防止法によって規定されています。煙突から排出される排ガスは大気汚染防止法の基準値以下でなければなりません。なので、煙突から排出される排ガスが基準値を超えないように公害値(NOx, SOx, ばいじん)を低減する必要あります。どのプラントも煙突入口付近に排ガス分析計が設置されていて、常時排ガス値を監視しています。

脱硝装置は排ガスに含まれるNOxを低減する装置です。いくつか種類がある脱硝方法の中でも特に選択触媒還元脱硝装置(SCR)が広く用いられています。今回はSCRを例にプロセス制御を考えます。

脱硝装置の構成

構成図を以下に示します。まず、触媒の入口のところでNOxを含む排ガスに対してアンモニア(NH3)をスプレーノズルで噴霧します。その後、排ガスが触媒を通過し、触媒の脱硝作用によってNOxはH2OとN2に分解されます。化学反応式は省略します。

要はアンモニアと触媒で排ガス中のNOxが除去できるということです。触媒とはなんぞやという話ですが、脱硝触媒は酸化チタンを主成分とした蜂の巣構造の物体です。触媒はただの物体なのでアンモニアの注入量を調整することによって排ガスのNOx濃度が目標値に追従するように制御を行います。

単純なフィードバック制御

制御の構成

最もシンプルな制御は「触媒出口のNOx濃度計でNOx濃度を測定して、目標値との偏差によりフィードバック制御を行う」というものです。ループ図を以下に示します。

カスケード制御として一次側ループをNOxコントローラ、二次側ループをアンモニア流量コントローラにしています。NOxの目標値と測定値からアンモニア注水量の目標値を決定し、アンモニア調節弁の開度を調整する考え方です。

欠点

シンプルなフィードバック制御ですが、重大な問題点が1つあります。実際これで制御するのは非常に困難です。その理由は、NOx制御はむだ時間が非常に長いプロセスであるためです。特にNOx濃度計の計測の時間遅れが最も大きな要因です。

ボイラの燃焼が安定していれば(≒ボイラ負荷が一定であれば)さほど問題にはなりませんが、外乱の発生に対しては適切にNOxを制御するのが非常に難しいです。例えば負荷デマンドが変動する火力発電プラントなどは特に影響が大きいです。なので、実際のプラントのNOx制御ではフィードフォワード制御が積極的に用いられます。

フィードフォワード制御

フィードバック制御フィードフォワード制御を加えた一例を以下に示します。

触媒入口NOx濃度計と排ガス流量計の測定値を追加しています。制御の内容についてひとつずつ説明していきます。

脱硝率、モル比の演算

触媒入口NOx測定値と触媒出口NOx目標値より、目標脱硝率を演算します。入口を  \mathrm{NOx_{in}} 、出口を  \mathrm{NOx_{out}} とすると脱硝率  \eta は以下の式で表されます。

 \eta = \dfrac{\mathrm{NOx_{in}} - \mathrm{NOx_{out}}}{\mathrm{NOx_{in}}} \times 100 \, \lbrack \% \rbrack

目標脱硝率からNH3/NOxモル比(NOx量に対する適切なアンモニアのモル比)を決定します。脱硝率とモル比は以下の関係があります。※グラフの線はテキトーです。

当たり前ですがアンモニア注入量が多いほど脱硝率は高くなります。ただアンモニアを過剰に注入しすぎると未反応のリークアンモニアが発生します。脱硝プロセスにおいては適切なアンモニア注入量にする必要があります。

目標脱硝率からモル比の換算は折れ線関数を用いて行います。折れ線関数の先は加算器があります。ここでフィードフォワード要素(モル比演算の出力)フィードバック制御出力を合わせたもの補正後モル比とします。フィードバック制御によって触媒出口NOxのSPとPVの偏差を見て、PVが高い場合はモル比(アンモニア)を増やす方向に、PVが低い場合は減らす方向に補正します。

NOx量、必要アンモニア注入量の演算

排ガス流量(Nm3/h)と触媒入口NOx測定値(ppm)から排ガス中のNOx量(mol/h もしくは L/h)を計算します。必要に応じて単位換算を行います。脱硝前のNOx濃度と前述で計算したモル比によって必要なアンモニア注入量が決まります。

ちなみに実際のNOx測定値には実測値(換算前)と基準O2換算値の2種類がある点に注意してください。上のループ図では簡易的に表すため触媒入口NOx測定値は1つだけしか描いてませんが実際は2種類あります。NOx量を求めるときは実測値(換算前)を使います。

ボイラ負荷変化によるフィードフォワード制御

触媒入口NOx濃度計でフィードフォワード制御を行ったとしても、やはり分析計自体に時間遅れが存在しているため、外乱発生時の追従性という点においては課題が残ります。そこでもう一つのフィードフォワード要素として、ボイラの負荷変化信号を用いてフィードフォワード制御を行う手法があります。

ボイラの負荷変化信号は、例えば負荷指令の値や排ガス流量、燃焼空気流量、燃料流量などです。負荷増加時、NOxも増加する傾向にあるので分析計測定値が変化する前に先行してアンモニア注入量を増やします。負荷減少時はその逆です。負荷の変化率から制御出力を演算してアンモニア注入量目標値に加えます。適切にFF制御器を設計すれば素早い制御が実現可能ですが、実際のところパラメータを適切に調整するのは難しいです。

まとめ

以上、脱硝装置(SCR)のアンモニア制御手法について紹介しました。負荷が変動するプラントにおいてはボイラ負荷変動に対していかに対応するかが重要となります。プラントメーカーによってはモデル予測制御を導入している例もあるようです。

参考文献、参考サイト