火力発電プラントのボイラ・タービンの制御方式には主にボイラ追従方式、タービン追従方式、ボイラ・タービン協調制御方式の3種類あります。その3種類を紹介します。これらの制御方式は火力発電プラントだけに限らずバイオマス発電プラントでも用いられます。
- ボイラ追従方式 (Boiler-following mode)
- タービン追従方式 (Turbine-following mode)
- ボイラ・タービン協調制御方式 (Coordinated control mode)
- 参考リンク
ボイラ追従方式 (Boiler-following mode)
概要
ボイラ追従方式は、発電機出力が出力目標値に一致するようにタービン蒸気加減弁の開度を調整し、一方でボイラ入力を調整して蒸気圧力を一定に保つ制御方式です。
例えば発電機の出力目標値を増やすと、出力制御コントローラが出力目標値 (SP) とタービン発電機の出力 (PV) の偏差を見て、蒸気加減弁を開方向に動かします。この結果、発電機の出力は増加します。このときボイラ入力と蒸気流量のバランスが一時的に崩れるのでボイラの蒸気圧力は低下します。そこで今度は圧力コントローラが圧力設定値 (SP) と測定値 (PV) の偏差を見てボイラ入力を増加させます。以上がボイラ追従方式の動作のイメージです。出力目標値を下げた場合は逆の動作が起こります。ちなみに、ここで言うボイラ入力とは燃料 (Fuel) と空気 (Air) と給水 (Feedwater) のことを指します。ただし、ドラム形ボイラにおいては給水流量はドラムレベル制御によって操作されるので、ボイラ入力で操作されるのは燃料投入量と空気供給量の2つとなります。
長所
ボイラ追従方式の利点は出力目標値の変化や負荷変動に対する応答性が早い点にあります。なぜならタービン入口の蒸気加減弁を調整するためです。
短所
ボイラ追従方式は後述のタービン追従方式に比べて負荷変化時のボイラの変動が大きいです。したがってボイラ追従方式は一般的にドラム形ボイラに採用されます。ドラム形ボイラは蓄熱容量が大きく、負荷変動に対する蒸気圧力が小さい特徴を持っています。負荷が変動してもボイラは比較的安定的なのでドラム形ボイラとボイラ追従方式は相性が良いです。一方、貫流ボイラは蓄熱容量が小さいため、もし仮に貫流ボイラにボイラ追従方式の制御を適用するとボイラが不安定になって制御は大変困難になると予想されます。
タービン追従方式 (Turbine-following mode)
概要
タービン追従方式では、タービン発電機の出力制御は蒸気加減弁ではなくボイラ燃料供給量によって調整を行います。蒸気加減弁は蒸気圧力を一定に保つ役割を担います。
上の図で示しているように、発電機出力制御コントローラの出力MVはボイラ燃料供給量の目標値となります。例えば出力目標値を増やすと出力制御コントローラはボイラの燃料供給量を増加させます。ボイラ入力が増えるとボイラの圧力が上昇します。このとき圧力コントローラが蒸気設定値と測定値の偏差を見て蒸気加減弁を開動作させます。これらの結果として蒸気圧力は一定を保ちながら発電機の出力は増加します。
長所
ボイラ主体で制御を行うため、ボイラ追従方式に比べるとボイラ側は安定します。
短所
タービン入口の蒸気加減弁ではなくボイラ燃料の投入量によって負荷制御を行うので、制御にラグが発生します。そのため負荷追従性はボイラ追従方式に比べて悪くなります。したがってタービン追従方式は負荷追従性が高い貫流ボイラに採用されます。
ドラム形ボイラと貫流ボイラの特徴をまとめると以下のようになります。
ドラム形ボイラ:負荷追従性が遅い。負荷の変動に対してボイラの変動が小さい。→ボイラ追従方式で制御する。
貫流ボイラ:負荷追従性が早い。負荷の変動に対してボイラの変動が大きい。→タービン追従方式で制御する。
ボイラ追従方式とタービン追従方式は、それぞれのボイラの短所をカバーして長所をうまく利用する制御というイメージです。
ボイラ・タービン協調制御方式 (Coordinated control mode)
ボイラ・タービン協調制御方式とは、言わばボイラ追従方式とタービン追従方式のいいとこ取り制御です。簡単な図で表すと以下のような感じになります。
蒸気加減弁とボイラ入力を同時並行で制御します。どちらかが他方に追従するわけではないです。両方を同時にうまく調整することでボイラ追従方式とタービン追従方式それぞれの欠点を取り除いています。詳細の制御ループは以下のようになります。※簡略化していますが実際はもっと複雑です。
タービン蒸気加減弁は出力制御コントローラによって制御されます。一方で燃料の投入量制御は少し複雑です。まず発電機出力目標値に主蒸気圧力制御のMVを加算したものをボイラマスタ信号と言います。実際のプラントにおいては負荷追従性をより改善するために、ボイラマスタ信号には出力目標値や圧力制御の他、フィードフォワード制御が使われたりします。
次に燃料関数を用いて、ボイラへ投入する燃料の目標値を決定します。その目標値に追従するようにボイラに燃料が投入されます。燃焼空気のほうは空燃比関数を使って燃料投入量目標値に応じて燃焼空気流量の目標値が決定されます。その空気流量目標値に追従するように燃焼空気が制御されます。ちなみにボイラの燃焼制御においてはクロスリミット制御が使用されます。今回説明は省略しますが、クロスリミット制御を行うことで負荷変化時の過渡状態においても空燃比が適正な範囲内で維持されるよう制御されます。
協調制御方式は負荷追従性が高く、ボイラ側も安定するため特に大規模な火力発電プラントに使用されます。あえて協調制御方式の欠点を挙げるならば、ボイラ追従方式やタービン追従方式に比べて制御ループの構成が複雑になるため、パラメータ調整が難しいという点でしょうか。