高圧電動機の始動方法

高圧電動機の始動方法を紹介します。基本的には低圧電動機の始動と同じですが、高圧電動機という観点からそれぞれの始動方式のメリット、デメリットを解説します。

高圧電動機の始動方式

高圧電動機では以下の始動方式が用いられます。それぞれのメリットとデメリットを挙げていきます。

  • 直入れ始動
  • リアクトル始動
  • コンドルファ始動
  • インバータ始動

直入れ始動

直入れは最もシンプルかつ低コストな始動方法です。一番扱いやすい直入れ始動ですが、直入れを検討する場合は始動電流の影響を考慮する必要があります。直入れ始動では始動時、定格電流の6~8倍の電流が流れます。

電源容量が十分大きい場合あるいは電動機容量が比較的小さい場合は直入れ始動でも問題ありません。ただし、始動電流によって生じる電圧降下が大きく母線電圧に影響を及ぼす場合は次のリアクトル始動やコンドルファ始動を検討します。

リアクトル始動

リアクトル始動では始動時、リアクトルを使って電動機に印加される電圧を減圧して始動電流を抑制します。リアクトル始動の回路を以下に示します。

始動時、主コンタクタVMC(52)を投入します。運転用コンタクタVMC(42)は開状態です。電動機巻線には電源電圧からリアクトルの電圧降下の分だけ減圧された電圧が印加されます。電動機の回転数が上昇して始動が完了したら運転用コンタクタVMC(42)を投入して電動機に電源電圧を印加します。

リアクトル始動の始動特性は「タップ」と呼ばれる端子の接続によって変わります。リアクトル始動器には通常、65%と80%のタップがあります。その他のタップが存在するリアクトル始動器もあります。

例えばタップ値が80%というのは、電動機に印加される電圧が電源電圧の80%であるという意味です。リアクトル始動において始動電流はタップ値に比例します。直入の始動電流が定格電流の7倍だとすると、タップ値80%のリアクトル始動では始動電流は定格電流に対して7×0.8=5.6倍というイメージです。

一方、始動トルクはタップ値の2乗に比例します。誘導電動機のトルクは電圧の2乗に比例します。タップ値が80%なら始動トルクは直入始動トルクに対して 0.8^2 = 0.64倍 のトルクになります。

コンドルファ始動

コンドルファ始動はリアクトル始動よりもさらに始動電流を抑制した始動方式です。コンドルファ始動ではリアクトルの代わりに単巻変圧器(オートトランス)を使用します。

始動時、主コンタクタVMC(52)と始動用コンタクタVMC(6)を投入します。VMC(42)は開状態です。電動機巻線には単巻変圧器によって減圧された電圧が印加されます。電動機の回転数が上昇したらVMC(6)を開放します。開放した瞬間、単巻変圧器はただのリアクトルとなります。VMC(6)開放後、運転用コンタクタVMC(42)を投入します。電動機に直接電源電圧が印加されて始動完了です。

コンドルファ始動の始動電流はタップ値の2乗に比例します。この原理を説明します。まず、タップ値が例えば80%だとすると、変圧器の二次側電圧は一次側の0.8倍の電圧です。0.8倍の電圧が電動機に印加されるため電動機に流れる電流も同様に直入時の0.8倍となります(ここまではリアクトル始動と同じ)。コンドルファ始動では変圧器を使用するため、変圧器一次側の電流は二次側電流の0.8倍の値です。したがって、変圧器一次側を流れる電流は、直入始動電流に対して 0.8^2 =0.64倍 となります。

コンドルファ始動の始動トルクはリアクトル始動と同様、タップ値の2乗に比例します。

インバータ始動

リアクトル始動やコンドルファ始動と比較してインバータ始動のメリットは以下の通りです。

  • 始動電流を最も抑制できる。
  • 始動トルクが大きい。
  • 力率が高い。
  • 加速時間、減速時間を調整できる。

始動特性に関して言えばインバータ始動はこれといった短所がありません。一方で高圧インバータのデメリットは主に以下の2点です。

  • コストが非常に高い。
  • インバータ盤のサイズが他の始動盤に比べて大きい。設置スペースを多く取る。

低圧の数十kWの汎用インバータはせいぜい数十万円程度ですが、高圧インバータの価格は非常に高いです。高圧電動機容量が数百kW~数千kWなので桁が1つ2つ変わってきます。また、他の始動盤に比べて機器構成が複雑で半導体部品が多いため、比較的故障リスクもあります(※個人的な意見)。初期費用だけでなく維持管理の費用も結構かかります。

インバータの回転数制御=省エネというイメージがありますが、高圧インバータは他の始動方式に比べてイニシャルコスト、ランニングコスト共に結構かかります。コストインパクトが大きいので高圧インバータを導入検討する際には省エネメリットの費用対効果を十分に検討する必要があります。

スターデルタ始動

低圧電動機では一般的なスターデルタ始動ですが、高圧電動機でスターデルタ始動が使われることはほとんどありません。スターデルタのデメリットは以下の2つです。

  • 他の始動方式と比べて始動トルクが小さい。直入に対して33%
  • Y→Δ切替時の突入電流が非常に大きい。※オープントランジション方式の場合。

特に2つめの突入電流は、高圧母線の電圧に悪影響を及ぼす可能性が高く、それがスターデルタが採用されない大きな理由です。高圧電動機の始動方式検討においては直入れがNGならリアクトル始動、リアクトル始動がNGならコンドルファ始動、という風を検討するのが一般的と思います。