インバータの加速時間、減速時間の計算方法

インバータの加速時間、減速時間の計算方法について解説します。

加減速時間を計算する目的

インバータの加速時間、減速時間を計算するのは、インバータの加減速の設定を検討するためと、制動抵抗器の要否を検討するためです。特に慣性モーメントが大きい送風機は加減速時間が長くなりがちなので事前に計算を行います。

インバータの加減速時間のパラメータを極端に短く設定した場合(機器の能力以上に短く設定した場合)、加速または減速中に過電流トリップや過電圧トリップが発生します。なのでインバータの加減速時間のパラメータは適切に設定する必要があります。そのために加減速時間の計算を行います。ただし、計算値はあくまで概算であり目安であるため、インバータの設定値は計算値よりも余裕を持った値にするのが一般的です。

現地試運転で加減速時にトリップが発生した場合は、加減速時間の設定値やその他のパラメータを見直してトリップを回避するように調整を行います。

加速時間、減速時間の計算式

加速時間  t_a \, \lbrack \mathrm{sec} \rbrack

\begin{align}
t_a = \dfrac{GD^{2} \times \Delta N}{375 \times (\alpha T_M - T_L)} \, \lbrack \mathrm{sec} \rbrack
\end{align}

減速時間  t_b \, \lbrack \mathrm{sec} \rbrack

\begin{align}
t_b = \dfrac{GD^{2} \times \Delta N}{375 \times (\beta T_M + T_L)} \, \lbrack \mathrm{sec} \rbrack
\end{align}

 GD^2: 電動機GD2と負荷GD2(電動機軸換算値)の合計値  \lbrack \mathrm{kgf \cdot m^2} \rbrack
 \Delta N:加減速前後の回転速度の差  \lbrack \mathrm{rpm} \rbrack
 T_M:電動機の定格トルク  \lbrack \mathrm{kgf \cdot m^2} \rbrack
 T_L:負荷トルク  \lbrack \mathrm{kgf \cdot m^2} \rbrack
 \alpha:加速トルク係数(V/f制御の場合:1.2~1.3、ベクトル演算制御の場合:1.5)
 \beta:減速トルク係数(制動抵抗器なしの場合:0.2、制動抵抗器ありの場合:0.8~1.0)

上記計算式は重力単位系(GD2)における式です。SI単位系の場合は375の数字が変わりますのでご注意ください。SI単位系の式については本記事の一番下に参考サイトのリンクを貼っていますのでそちらをご参照ください。

GD2については以前の記事(直入始動の始動時間の計算方法)をご参照ください。

electrical-instrumentation.com

直入始動の場合、電動機の始動トルクは定格トルクの200~300%程度の大きいトルクが得られますが、インバータ制御の場合、始動トルクは定格トルクの120~150%程度となります。

停止状態から周波数100%に到達するまでの加速時間

停止状態から周波数100%に到達するまでの加速時間の求めるやり方は主に2通りあります。

まず1つ目は、例えば周波数0%→10%、10%→20%、20%→30%、30%→...と周波数10%ごとの加速時間  \Delta t を計算していって、 t = \Delta t_1+ \Delta t_2 + \Delta t_3 + ... という感じで0%から100%に到達するまでの時間tを求める方法です。 

2つ目は、0%から100%までの平均負荷トルクを計算し、その平均負荷トルクを計算式の  T_L に代入するやり方です。平均負荷トルク  \overline{T_{L}} は以下の通りです。

 \overline{T_{L}} \fallingdotseq 0.34 \times T_{L}(送風機など、2乗低減トルク負荷の場合)
 \overline{T_{L}} \fallingdotseq T_{L}(コンベヤなど、定トルク負荷の場合)

定トルク負荷の場合は負荷トルクは回転数によらず一定なので、負荷トルクをそのまま式に代入すればOKです。2乗低減トルク負荷の場合、負荷トルクは回転数の2乗に比例します。そのため上記のやり方で計算を行います。各周波数(各回転数)における負荷トルクは、ポンプメーカーや送風機メーカーから入手したトルク特性曲線を参照します。上記は加速時間の計算方法ですが、逆に100%から0%に到達するまでの減速時間を求める場合も同様です。

加速時間、減速時間が極端に長い場合

加速時間の計算値が極端に長くて、短くしたい場合はモータやインバータの容量アップが必要となります。

また、制動抵抗器なしで減速時間の計算値が極端に長い場合は制動抵抗器の設置が必要となります。 \beta の係数を見直して再度計算を行い、減速時間が適正な値であることを検証します。

参考サイト

係数  \alpha \beta の値は各インバータメーカーの技術情報を参考にしました。インバータのメーカー、機種によって数値が変わるので加減速時間の検討に際しては使用するインバータの仕様書をよく確認する必要があります。また、インバータの選定に関しては三菱電機の技術資料が特に詳しくて参考になります。