以下の記事では誘導発電機の並列時の瞬時電圧低下率について解説しました。
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今回は、瞬時電圧低下率を検討する目的と瞬時電圧低下率抑制の計算方法について解説してみます。
瞬時電圧低下率を検討する目的と許容範囲
なぜ瞬時電圧低下率を計算するのかと言うと、瞬時電圧低下率が許容範囲内に収まっているかを確認するためです。発電設備並列時の瞬時電圧低下に関しては電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドラインに以下の記載があります。
発電等設備の連系時の検討においては、発電等設備の並解列時の瞬時電圧低下は、コンピュータ、OA機器、産業用ロボット等の情報機器が、定格電圧の10%以上の瞬時電圧低下により機器停止等の影響を受ける場合があることも勘案し、常時電圧の10%以内(100V系では90Vが下限値)とすることが適切である。
要するに、発電機並列時の瞬時電圧低下が大きすぎると電子機器の動作に影響が出るので、瞬時電圧低下率は常時電圧の10%以内に抑えましょうという内容です。言い換えれば発電機を並列した瞬間の電圧が、常時電圧の90%以上である必要があります。また、誘導発電機連系時の瞬時電圧低下が10%を超える場合においては、限流リアクトル等の設置が求められます。これもガイドラインに記載があります。
ちなみに10%以内というのは高圧配電線に連系する場合であり、特別高圧においては2%以内が目安となります。
例題
限流リアクトルがない場合
誘導発電機連系点における瞬時電圧低下率の計算式は以下の通りです。 が発電機から見た系統側の%インピーダンス、 は誘導発電機の拘束リアクタンスです。
\begin{align}
\varepsilon = 1 - \dfrac{X}{\sqrt{R_0^2 + (X_0 + X)^2}}
\end{align}
電験2種二次試験の過去問題では でしたが、例えば誘導発電機の拘束リアクタンスを に変えて計算してみると電圧低下率は以下のようになります。
\begin{align}
\varepsilon = 1 - \dfrac{250}{\sqrt{16.15^2 + (36.45 + 250)^2}} = 0.129
\end{align}
瞬時電圧低下率は12.9%となり、ガイドラインで要求される10%を逸脱します。瞬時電圧低下率を抑制するためには限流リアクトルの設置が必要となります。次に、この条件において、連系条件を満足するために必要な限流リアクトルの値を求めてみます。
限流リアクトルを設置した場合
限流リアクトルを とすると、発電機連系点における瞬時電圧低下率の計算式は以下のようになります。
\begin{align}
\varepsilon = 1 - \dfrac{X + X_1}{\sqrt{R_0^2 + (X_0 + X + X_1)^2}}
\end{align}
瞬時電圧低下率を10%以内にするためには、以下が成立しなければなりません。
\begin{align}
1 - \dfrac{250 + X_1}{\sqrt{16.15^2 + (36.45 + 250 + X_1)^2}} \leqq 0.1
\end{align}
この2次方程式を解くと となり、基準容量ベースで81%以上のリアクタンスを持つ限流リアクトルを設置すれば連系条件を満足することになります。電験の本番では2次方程式を手計算で頑張って解かないとダメですが、Excelで計算すれば簡単です(笑)
まとめ
誘導発電機を並列した際の瞬時電圧低下率の許容値と、限流リアクトルの計算例を紹介しました。限流リアクトルによる電圧低下の抑制に関しては過去に平成6年度の電験1種二次試験で出題されています。今後、電験2種の二次試験で出題される可能性も、もしかしたらあるかもしれません。
参考文献
電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドライン, 令和5年4月1日, 資源エネルギー庁 (PDFファイル)
電験_配電線No9_風力発電接続時の限流リアクトルによる電圧降下の抑制( 1種 送配電−平成6年−問題3) - Ubuntu,Lubuntu活用方法,電験1種・2種取得等の紹介ブログ