特高受電の発電設備の受電点(連系点)の力率と常時電圧変動について説明します。
連系点力率(逆潮流がある場合)
特別高圧で逆潮流のある発電設備の力率については「電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドライン」には以下のように記載されています。
発電設備等設置者の受電点における力率は、系統の電圧を適切に維持できるように定めるものとする。
高圧および低圧受電の場合は「受電点における力率を85%以上とし、かつ系統側から見て進み力率とならないようにする」と定められています。一方で、特別高圧では電圧を適正値に維持できる力率と定めています。では、電圧の適正値とは具体的にどれくらいの値でしょうか?これも同ガイドラインに書かれています。
特別高圧設備の常時電圧変動
「電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドライン」より
特別高圧電線路への連系においては、発電設備等の連系による電圧変動は、常時電圧の概ね±1~2%以内を適正値とし、この範囲を逸脱するおそれがある場合には、発電設備等設置者において自動的に電圧を調整するものとする。
概ね±1~2%以内、という書き方が気になりますが、とりあえず2%を目安に考えます。発電設備の運転によって生じる電圧変動が2%以内に収まるかどうか検討して、この範囲を超えないように電圧の調整を行う必要があります。
常時電圧変動計算式
上の図のケースで、発電設備の連系点(受電点)における電圧上昇値 [p.u.]は単位法で表すと電圧変動の大きさは以下の近似式で表されます。
\begin{align}
\Delta V= RP - XQ
\end{align}
:系統のインピーダンスの抵抗とリアクタンス [p.u.]
:有効電力 [p.u.]
:無効電力 [p.u.]
上の計算式では有効電力Pは発電設備から系統に流れる方向を正、無効電力Qは遅れ無効電力が系統から発電設備に流れる方向を正としています。系統から見て遅れ力率となるケースが一般的なのでこのようにしています。有効電力はP=発電機の発電電力-所内負荷です。一方、無効電力は同期発電機がある場合、発電機のAPFR制御またはAQR制御によって制御されます。発電電力(有効電力)が一定とすると、受電点(連系点)の電圧は無効電力の増減によって調整されます。
常時電圧変動の計算例
計算例(力率100%)
以下の例で連系点の電圧上昇を計算してみます。基準容量は10 MVAとします。
連系点の力率が100%なので無効電力はゼロです。R, X, P, Qをそれぞれp.u.値に変えて計算すると連系点の電圧上昇は、
\begin{align}
\Delta V &= RP - XQ \\ &= 0.02 \times 1.8 - 0.06 \times 0 \\ &= 0.036 \, \lbrack \mathrm {p.u.} \rbrack = 3.6 \, \lbrack \% \rbrack
\end{align}
3.6%となります。2%を超過しているためNGです。力率を再検討する必要があります。
計算例(力率95%)
連系点の力率を95%としてみました。
力率95%なので系統から5916 kvar(0.5916 p.u.)の遅れ無効電力を受け取ることになります。よって、連系点の電圧上昇は、
\begin{align}
\Delta V &= RP - XQ \\ &= 0.02 \times 1.8 - 0.06 \times 0.5916 \\ &= 0.0005 \, \lbrack \mathrm {p.u.} \rbrack = 0.05 \, \lbrack \% \rbrack
\end{align}
0.05%となりました。特に問題はありません。ただし、発電機が進み力率になっている点に注意してください。系統から受ける無効電力>所内負荷で消費される無効電力なので、発電機は余剰分の遅れ無効電力を消費する(=進み無効電力を供給する)ことになります。つまり発電機は進相運転になります。
進相運転の注意点
同期発電機は通常、遅れ力率~100%の範囲で運転されます。進相運転も可能ですが運転可能範囲内でなければなりません。進相運転(低励磁運転)は固定子端部の異常過熱や安定度の低下に繋がる危険性を持っています。過度の低励磁運転を防止するため、同期発電機のAVRにはUEL (Under Excitation Limit: 不足励磁制限) 機能があります。UELにより制限値を超える進相運転は出来ないようになっています。
上の計算例では発電機力率が進み97.3%になっていますが、その運転条件が同期発電機の運転可能範囲内かどうかは要確認です。
まとめ
- 特高の発電設備では受電点(連系点)の電圧を適正な範囲内で維持するように力率制御を行う。
- 逆潮流では電圧上昇が発生するが、連系点を遅れ力率にすることで電圧上昇対策になる。
- 余剰分の無効電力は同期発電機で消費する。このとき同期発電機は進相運転となる。
受電点の電圧変動と発電機の力率はトレードオフの関係にあります。発電機を進相運転させることで電圧上昇対策になりますが、進相運転はある値で制限されます。したがって両者を考慮しながら連系点力率を検討していきます。実際の設計時においては連系点の力率は電力会社との協議になります。
もし同期発電機で電圧調整をしきれず電圧変動が2%を超える場合は分路リアクトルやSVCの設置を検討します。
参考文献
「電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドライン」(資源エネルギー庁)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/summary/regulations/pdf/keito_renkei_20220401.pdf