発電プラントにおけるボイラドラムのレベル制御について解説します。
ボイラドラムレベル制御とは
給水→ドラム→蒸気のプロセスの図を以下に示します。
ボイラドラムレベル制御とは、給水流量を調節弁により調節し、ボイラドラムのレベル(水位)を制御するものです。ボイラ給水ポンプによって水が送られて、ボイラドラムで飽和蒸気が発生します。ボイラドラムのレベルが目標値(通常50%)となるように給水調節弁を操作します。
ドラムのレベル制御には1要素制御と3要素制御があります。2要素制御(レベルと蒸気流量による制御)も存在しますが、今回はよく使用される1要素と3要素について説明します。
1要素制御
1要素制御とはレベル調節計のみを使用した単純なフィードバック制御です。
当然、単ループ制御なので外乱(給水流量や蒸気量の変動)の影響を受けやすいという欠点があります。そのためプラントの通常運転中は3要素制御を使用します。1要素制御はボイラの立ち上げ時のみ使用します。
3要素制御
3要素制御とは給水流量、ボイラドラムレベル、蒸気流量の3要素からなる制御です。1次ループをLIC(レベル制御)、2次ループをFIC(給水流量制御)としたカスケード制御に主蒸気流量のフィードフォワード制御を加えたものです。ループの図を以下に示します。
レベル制御と給水流量制御のカスケード制御とすることで、給水流量の外乱を抑制します。また、蒸気流量によりフィードフォワード制御を行います。このフィードフォワード制御は逆応答特性の対策として用いられます。
逆応答とは
蒸気流量が増加したとき、ボイラドラムの水位は本来なら減少するはずです。しかし、実際、蒸気量が増えると見かけの水位が一時的に上昇する現象が起こります。逆に蒸気量が急に減少すると見かけの水位が減少します。これを逆応答特性と言います。イメージ図を以下に示します。
なぜ蒸気量が増えたとき一時的に水位が上昇するのか?それは蒸気量が急に増えるとドラム内の気泡体積率が増加するためです。ボイラドラムは気泡体積率の変化によって見かけの水位が変化してしまう特性を持っています。
そのため普通のレベル調節計によるフィードバック制御では、
- 蒸気量が増加。
- 見かけの水位が上昇(と判断される)
- 調節弁を絞る方向に制御される。
- ドラムレベルの低下がさらに大きくなる。
という事象が起こってしまいます。その対策として、蒸気流量によるフィードフォワード制御を行います。
フィードフォワード制御では、蒸気流量の変化率にゲインを掛けたものを調節計に足し込むことでレベル調節計の操作量と相殺します。相殺してやることでドラムレベルの急変動を抑えるという仕組みです。このように3要素制御では蒸気流量の急変動(外乱)に対しても安定的な制御を行います。
フィードフォワード制御
フィードフォワード制御について考えます。ボイラドラムの入と出を考えると、定常状態では給水流量(流入流量)と蒸気流量(流出流量)の比率は基本的に1:1です。つまり、ドラムレベルを一定に保つためには蒸気流量が例えば3%増加したら給水流量も3%増やす必要があります。
FF制御器の出力は、蒸気流量の現在値を、前回値を、流量計の最大目盛値を、ゲインをとすると以下の式で表されます。
\begin{align}
Y = K \dfrac{PV_{n} - PV_{n-1}}{F_{S}} \, \lbrack \% \rbrack
\end{align}
蒸気流量の変化率にゲインを掛けたものが出力です。給水と蒸気の比率を1:1とすれば理論的にはゲインは です。もし蒸気と給水の流量計の測定範囲が異なる場合は蒸気流量目盛を、給水流量目盛をとして以下のようにします。
\begin{align}
K = \dfrac{F_{S}}{F_{W}}
\end{align}
実際の試運転においては蒸気流量が変化したときのドラムレベルのトレンドを見ながらゲインを微調整します。
ちなみに、ボイラ過熱低減器の注水量を考慮すると蒸気流量と給水流量の関係は正確には、蒸気流量=給水流量+注水量です。注水ラインに流量計がある場合はFF制御器の演算式に注水量を加味するケースもあります。
1要素制御と3要素制御の切り替え
1要素制御はボイラ立ち上げ時、3要素制御は通常運転時に使用します。ボイラの立ち上げ時は給水流量と蒸気流量が少なく3要素制御を使用できないため、1要素制御を使用します。蒸気流量が一定以上となると3要素制御に切り替えて制御します。
まとめ
ドラムレベル制御をまとめると以下の図となります。
立ち上げ時は1要素制御として、蒸気流量が増えてきたら3要素制御に切り替えるイメージです。プロセスの急変動を防ぐため、1要素制御と3要素制御はバンプレスに切り替える必要があります。
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図には描いていませんが流量計とレベル計の測定値は通常、近傍の温度計と圧力計の値によって密度補正されています。以下の記事は蒸気流量計の補正に関する記事ですがドラムのレベル計も同様の考え方で密度補正が必要です。ドラムの圧力と温度の変動で密度が変化しますのでそれらに対する補正が必要となります。
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以上がボイラドラムレベル制御です。ドラムレベル制御は発電プラントでは主蒸気温度制御と並んで代表的な制御です。