オリフィス流量計の絞り口径dや絞り直径比βの設計方法についてJIS規格を基に解説します。
はじめに
JIS規格
オリフィス流量計に関するJIS規格は以下の2つがあります。この規格をベースに内容を説明します。
- JIS Z8762-1 円形管路の絞り機構による流量測定方法− 第1部:一般原理及び要求事項
- JIS Z8762-2 円形管路の絞り機構による流量測定方法− 第2部:オリフィス板
オリフィスを購入する場合、メーカーにプロセス条件を提示して計算を依頼することが一般的ですが、JIS規格の内容を理解すれば自分でオリフィス径の計算が出来ます。
記号と単位
計算に用いる記号と単位は以下の通りです。
記号 | 記号の名称 | 単位 |
C | 流出係数 | - |
d | 絞り口径 | m |
D | 配管径 | m |
p1 | 一次側圧力(絶対圧力) | Pa |
p2 | 二次側圧力(絶対圧力) | Pa |
Δp | 差圧 p1-p2 | Pa |
Δω | オリフィスの圧力損失 | Pa |
ReD | 配管径Dに関するレイノルズ数 | - |
qm | 質量流量 | kg/s |
qv | 体積流量 | m3/s |
β | 絞り直径比 d/D | - |
ε | 膨張補正係数 | - |
κ | アイゼントロピック指数 | - |
ρ | 流体の密度 | kg/m3 |
μ | 流体の粘度 | Pa・s |
計算式とパラメータ
オリフィスの流量計算式と重要なパラメータを紹介します。
流量の計算式
質量流量qmは以下の式で求められます。
\begin{align}
q_m = \dfrac{C}{\sqrt{1 - \beta ^4}} \varepsilon \dfrac{\pi}{4} d ^2 \sqrt{2 \Delta p \rho }
\end{align}
体積流量qvを求めたい場合は、質量流量qmを密度ρで割ります。
\begin{align}
q_v = \dfrac{q_m}{\rho}
\end{align}
絞り直径比β
オリフィス口径dと配管径Dの比を絞り直径比βと言います。
\begin{align}
\beta = \dfrac{d}{D}
\end{align}
流出係数C
流出係数Cとは理論値と実際の流量との比のことです。オリフィスの流出係数Cは大体0.6くらいです。流出係数は絞り直径比β、レイノルズ数ReD、配管径Dに依存します。また、圧力取り出し方法(コーナータップ、D-D/2タップ、フランジタップ)の種類によっても変わります。そしてレイノルズ数ReDもまた質量流量qmに依存します。このように流出係数Cは一意的に決まるパラメータではないため、繰返し計算によって値を求めます。
JIS Z8762-2の5.3.2.1に流出係数Cの計算式がありますが、非常に長い計算式なのでここでは省略します。とにかく、オリフィス計算においては流出係数Cと絞り比βが特に重要なパラメータとなります。βとReDで流出係数Cの値が決まる、βとCがある値のときqmの流量でΔpの差圧が発生する、というイメージです。
膨張補正係数ε
流体の圧縮性を考慮に入れる係数です。流体が液体(非圧縮性)である場合、 です。圧縮性流体の場合は1未満となり、その値は絞り直径比β、オリフィス一次側圧力p1、二次側圧力p2、アイゼントロピック指数κに依存します。
\begin{align}
\varepsilon = 1 - (0.351 + 0.256\beta^4 + 0.93\beta^8) \left[ 1 - \left( \frac{p_2}{p_1} \right)^{\frac{1}{\kappa}} \right]
\end{align}
アイゼントロピック指数κ
アイゼントロピック指数 κ は、JIS Z8762において以下のように定義されてます。
アイゼントロピック指数(κ) 可逆的な断熱変化(等エントロピー変化)の状態において,密度の相対的な変化に対応する,圧力の相対的な変化の比。
参考値を掲載しているサイトがあったので下記に添付します。水の場合は κ=1.3、空気の場合は κ=1.4 を近似値とすればよいかと思います。計算してみたらわかると思いますが、1.3でも1.4でも計算結果に与える影響は小さいです。
計算手順
オリフィスの計算をする場合、以下の2つのパターンがあります。
- 与えられた μ,ρ,D,Δp,dから流量qmを求める。
- 与えられた μ,ρ,D,Δp,qmからオリフィス径d及び絞り直径比βを求める。
オリフィスプレートの設計においては、流体の粘度、流体の密度、配管径、目盛差圧、目盛流量は既に与えられており、これらの条件を基にオリフィス径dと絞り直径比βを計算で求めるのが一般的な手順と思います。よって、2番目のやり方を説明します。
計算手順
計算の手順を下記に示します。
- まず絞り比βの初期値を仮で設定する。
- そのβから流出係数Cを求める。
- Cとβを使って質量流量qmまたは体積流量qvを求める。
- 計算結果の流量と目盛流量と異なる場合はβを変えて再度、流出係数と流量を計算する。
- 計算結果が目盛流量が一致するまで繰返し計算を行う。
- 計算結果がJISの使用可能範囲の条件を満足していればOK。
使用可能範囲の判定
JIS Z8762-2の5.3.1にオリフィスの使用可能範囲が規定されています。オリフィス径d、配管径D、絞り直径比β、レイノルズ数ReDは規定の条件を満足しなければなりません。条件を満足しない場合、そのオリフィスは使用不可(製作不可)となります。
圧力損失
オリフィスの圧力損失Δωを求める近似式は以下の式で表されます。
\begin{align}
\Delta\omega = \frac{\sqrt{1 - \beta^4 (1 - C^2)} - C \beta^2}{\sqrt{1 - \beta^4 (1 - C^2)} + C \beta^2} \Delta p
\end{align}
よく勘違いする人がいますが、オリフィスの一次側と二次側の差圧Δpは圧力損失ではないです。オリフィス直後では急激な圧力降下が発生するものの、さらに下流側では徐々に圧力が回復します。一次側の静圧p1と二次側の回復後の静圧の差が圧力損失Δωです。一方でΔpは一次側p1と二次側(オリフィス直後)p2の差圧です。圧力の変化を図で示すと以下のようなイメージです。
まとめ
以上、オリフィスの絞り経の計算方法について説明しました。オリフィスの計算式は非常にややこしいですが、内容を理解できればExcelのVBAやゴールシーク機能を使って計算することが可能です。自分で手を動かして計算することで適用可否や圧損などいろいろ検討ができます。