速度型PID制御とは?

制御工学の授業や参考書で紹介されるPID制御のアルゴリズム位置型PID制御です。それに対してDCSなどのデジタル制御では速度型PID制御が用いられます。今回は速度型PIDについて解説します。

位置型PID制御

基本となる位置型PID制御の出力MVの演算式は以下の通りです。

\begin{align}
MV = K_P \left(E + \dfrac{1}{T_I} \int{E dt} + T_D \dfrac{dE}{dt} \right)
\end{align}

Kp:ゲイン,TI:積分時間,TD:微分時間
偏差Eは正動作のとき  E = PV- SP、逆動作のとき  E = SP - PV です。第1項は比例要素、第2項は積分要素、第3項は微分要素で、お馴染みのPID演算式です。

速度型PID制御

速度型PID制御は、前回出力との差分ΔMVを求める演算方式です。MVを計算するのではなく、ΔMVつまり前回出力からの差分を求めるのが速度型PIDの特徴です。デジタル制御におけるΔMVの演算式を以下に示します。

\begin{align}
\Delta MV = K_P \left\{ \Delta E + \dfrac{T_s}{T_I} E_n + \dfrac{T_D}{T_s} \Delta \left( \Delta E \right) \right\}
\end{align}

\begin{align}
\Delta E = E_n - E_{n-1}
\end{align}

\begin{align}
\Delta ( \Delta E ) = (E_n - E_{n-1}) - (E_{n-1} - E_{n-2})
\end{align}

Ts:制御周期(サンプリング周期),En:現在の偏差,En-1:前回の偏差,En-2:前々回の偏差

位置型PIDの演算式と比較するとそれぞれの項が微分されていることがわかると思います。前回の出力をMVn-1とすると、制御出力MVnは前回出力値にΔMVを加えた値となります。

\begin{align}
MV_n = MV_{n-1} + \Delta MV
\end{align}

制御実行中は前回MVにΔMVを加算(もしくは減算)することをひたすら繰返します。結果的には速度型PID制御も通常、位置型PID制御と同じ動作となります。

速度型PID制御の利点

速度型PID制御の利点は以下の2つが挙げられます。

  • 手動→自動のモード切替時のバンプレス動作が容易に実現できる。
  • ワインドアップ対策の処理が不要。
手動→自動のモード切替時のバンプレス動作が容易に実現できる。

コントローラの制御モードをMANUALからAUTOに切り替える場合、手動操作量MVがMVn-1になるので、そこからMVがスタートとなります。よってバンプ(MVの急変)を防ぐことができます。位置型PID制御で同様のことを実現しようとすると煩雑なものになりますが、速度型PID制御ではバンプレス動作が容易に実現できます。

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リセットワインドアップ対策が不要。

実際のプロセス制御においては、調節弁やコントローラの制約など様々な事情によって測定値PVが目標値SPに収束しない状態がしばしば発生します。このような場合だと位置型PID制御では積分量がどんどん蓄積されて収拾が付かなくなり、積分量が過大になります。こうなってしまうと過大に溜まった積分量のせいで、偏差が反転しても目標値追従性が非常に悪くなります。このような状態をリセットワインドアップとか単にワインドアップと言います。位置型PID制御では、ワインドアップ対策が必要になります。一方、速度型PID制御であればその演算の原理上、ワインドアップの問題は起こりません。速度型PIDは本質的にアンチワインドアップであると言えます。

以上のメリットより、DCSのプロセス制御においてはほとんど速度型PID制御が用いられています。

参考資料

三菱電機株式会社:PX Developer プログラミングマニュアル