PID制御のバンプレス切替

PID制御のバンプレス切替について解説します。

バンプレスとは

バンプ=急変の意味で、PID制御においては主にMVの急変(≒不連続な変化)のことを指します。バンプレスとは、PID調節計の制御モードや制御ループの切替時においてMVがスムーズに切り替わることです。

バンプレスを考慮しなかった場合の問題点

制御モードや制御ループの切替時にMVが急変するとプロセスが不安定になったりPVが急変するおそれがあります。プラントの制御においては安定性が何より大事なのでバンプレス機能は非常に重要な役割を持っています。どのDCSにもバンプレス機能が標準的に具備されています。

MAN→AUTO切替時のバンプレス切替(PVトラッキング

例えばPID調節計をMANUALに選択してMVを手動で固定している場合を考えます。MANのときはSP≠PVになっていることが多いと思います。SP≠PVの状態においてAUTOに切り替えた瞬間、SPとPVの偏差によってMVが急変動するおそれがあります。

この対策として、MAN選択時はPV値をSPに書き込む手法があります。すなわちMANに選択されているときはSPを書き換えてSP=PVの状態にします。よって、MANからAUTOに切り替えた瞬間はSP=PVなのでMVの急変が生じることはありません。MAN選択時、SPがPVに追従しているのでこのような動作をPVトラッキングとも言います。

ただし、MAN→AUTOでバンプが起こるのは位置型PID制御の話であって、プラントで一般的に使用される速度型PID制御であればMAN→AUTOのバンプレス切替はPVトラッキングなしで実現できます。速度形PID制御については別途解説記事を作成予定ですが詳しくはググってみてください。

また、上の例ではAUTOに切り替えたあとのSPはMAN→AUTO切替時のPVの値が維持されますが、製品によってはSPを以前設定していた値に戻す機能もあります(下記リンク参考)。その場合は予め設定された変化率によってSPの値を以前の値に徐々に戻します。

www.yokogawa.co.jp

カスケード制御のバンプレス切替(SPトラッキング

カスケード制御においては、2次ループ(下位ループ)をAUTOの状態からCASに切り替えるときに2次ループのSP(1次ループのMV)の挙動がバンプレスであることが望ましいです。

以下の図のカスケード制御において2次ループがAUTOまたはMANに選択されているとき、2次ループのSPを1次ループのMVに書き込みます。

1次ループのMVは2次ループのSPを常に追従しているのでこのような動作をSPトラッキングとも言います。こうすることで2次ループをCASに切り替えたとき、1次ループのMVは2次ループのSPから始まるのでバンプしません。この例においては速度型PID制御が用いられます。

制御ループ切替時のバンプレス切替(MVトラッキング

PVトラッキング、SPトラッキングの他、MVトラッキングもあります。主にセレクターによる制御ループの切り替え時に用いられます。例を以下に示します。

温度制御コントローラと圧力制御コントローラの2種類があり、プラント運転中にある条件によってセレクターで制御が切り替わるものとします。バンプレスに切り替わるように「選択されているほうの制御ループのMV値」を「選択されていないほうの制御ループのMV値」に書き込みます。制御ループ切替後は直前のMVから始まるのでMVのバンプは発生しません。この例においても速度型PID制御が使用されます。

まとめ

PID制御におけるバンプレス切替の手法を紹介しました。特に最後の例は、MVトラッキングを有効にしないと末端の調節弁の操作量がバンプしてしまい悪影響を及ぼす可能性大です。セレクターを使用する場合は必ずバンプレスを考慮するようにしましょう。

参考資料

「MELSEC計装テクニカルガイド」(三菱電機
http://dl.mitsubishielectric.co.jp/dl/fa/document/catalog/plc/l08028/l08028e.pdf