スターデルタ始動モータのケーブルの電圧降下について考えてみます。
直入れ三相モータの電圧降下計算式
まず基本式として、直入れの三相モータの電圧降下計算式は以下の通りです。
:ケーブルに生じる電圧降下 [V]
:負荷電流 [A]
:配線距離 [km]
:ケーブルの抵抗 [Ω/km]
:ケーブルのリアクタンス [Ω/km]
:負荷力率
ただし、上式が使えるのは直入れのモータやインバータの場合です。スターデルタ始動では配線が6本になるのでこの式は使えません。
スターデルタ始動モータの電圧降下計算式
スターデルタの場合、制御盤からモータ端子部までのケーブルで生じる電圧降下の計算式は以下の式となります。
直入れの基本式とは係数が異なります。なぜこうなるかを以下で解説します。
Δ結線時(定常時)
まずは通常運転時のΔ結線で考えてみます。スターデルタ始動の回路を以下に示します。
Δ結線はMCとMCDが閉、MCSが開の状態です。U-Y, V-Z, W-Xがそれぞれ短絡状態となり、モータの回路は以下のようになります。
スターデルタ始動では配線が6本あるのでケーブルのインピーダンスは行きと帰りで2倍となります。言い換えると、制御盤からモータまでの距離がLの場合、インピーダンスは(単位長さあたりの電線インピーダンス)×2Lとして計算する必要があります。
また、ケーブルを流れる電流は線電流ではなく相電流になります。相電流は線電流の1/√3倍になります。よって線電流(スターデルタ回路の一次側=サーマルリレーの場所)で電流 が流れているとき、盤~モータのケーブルには の電流が流れています。
以上より、ケーブル長さ が2倍、電流 が 倍になるということで、電圧降下の計算式は以下の式となります。
直入れモータの違いは、直入れの場合は線電流でケーブルの電圧降下を計算しますが、スターデルタのΔ結線では相電流で電圧降下を計算する点にあります。相電流(相電圧)のところで見ているので三相モータの基本式にあった係数 は今回関係なく、係数は となります。
Y結線時(始動時)
始動時すなわちY結線時の回路は以下の通りとなります。
直入れ時と比較して、ケーブルの長さが2倍になるのでL→2Lになります。また、スターデルタ始動におけるY結線の始動電流は、Δ結線時(直入時の始動電流)の1/3倍になります。Y結線時の電圧降下は、基本式を用いて以下の式となります。
\begin{align}
\Delta V &= \dfrac{2}{3} \times \sqrt{3} I L ( R \cos{\theta} + X \sin{\theta} ) \\&= \dfrac{2}{\sqrt{3}} I L ( R \cos{\theta} + X \sin{\theta} )
\end{align}
結局、Δ結線時のときに求めた計算式と同じ式になります。ただし、上式の電流 には直入れ時の始動電流(例:定格電流の10倍)を入れてください。
以上より、スターデルタの始動時の電圧降下は直入れ時の2/3倍(67%)になります。(ケーブルのサイズ、配線距離が同じという条件で)
始動電流が直入の1/3倍になるからと言って電圧降下も1/3倍になるわけではないので注意が必要です。
まとめ
スターデルタ始動モータの電圧降下の計算について解説しました。なお、今回の計算式は制御盤からモータ端子部までの電圧降下です。制御盤(スターデルタ回路)の一次側の電圧降下を求める場合は通常の三相負荷の基本式で計算してください。