大容量の電動機の始動時に発生する電圧降下の計算方法について解説します。本記事では始動電流による電圧降下率を電圧の分圧計算から求めます。
始動時の電圧降下と問題点
一般的に誘導電動機の始動電流は定格電流の6~10倍となります。始動電流が流れると、それによって電圧降下が発生し、以下の悪影響を及ぼします。
- モータに印加される電圧が下がり、電動機トルクが小さくなる。→ トルク不足や始動時間が長くなりトリップが発生する。
- 電圧低下によって他の機器や制御回路へ悪影響が発生する。
直入始動では始動時の電圧降下が大きくなるので、その電圧降下がどの程度なのか、許容できる程度なのか、検討する必要があります。もし問題がある場合はスターデルタ始動など始動電流を抑制した始動方法に変更しなければなりません。
検討方法
始動電流による電圧降下を検討する場合は、まずプラントの動力負荷の中で最大の電動機を直入れ始動した場合の電圧降下を計算します。もしその電圧降下が大きすぎる場合は始動方法を減電圧始動(スターデルタ、リアクトル始動など)とします。1番大きい電動機の始動検討が解決したら、次に大きい電動機の始動方式を検討します。
いろいろなパターンで計算すると直入始動を許容できるラインが大体わかってくると思います。
電動機始動による電圧降下の許容範囲は低圧母線(低圧盤やMCCの地点)で10%以内、電動機の端子部で15%以内を目安とします。電圧降下がこれ以上大きくなると、上に記載したような悪影響が発生します。
単線結線図と等価回路の作成
簡単な単線結線図を以下に示します。今回は高圧受電を例とします。
破線で囲ったところはベース負荷、つまり始動電動機以外で稼働している負荷です。ベース負荷稼働時に、大容量の電動機を始動させた場合の電圧降下について検討します。
流れとしては 系統→受電点→引込ケーブル→高圧引込盤→高圧変圧器→低圧配電盤→MCC→低圧ケーブル→電動機 のイメージです。
等価回路を以下に示します。下の回路でスイッチが閉じた状態(つまり、電動機を始動したとき)の変圧器二次側の電圧Vが、電源E0に対していくら下がっているかを検討します。また、同様に電動機端子部における電圧Vmotorについても検討します。
:電源の%インピーダンス
:引込ケーブルの%インピーダンス
:変圧器の%Zインピーダンス
:低圧ケーブルの%Zインピーダンス
:ベース負荷の%Zインピーダンス
:始動電動機の%Zインピーダンス
実際は他の場所にもケーブルやバスダクトのインピーダンスが存在しますが、距離が短くインピーダンスが小さいものとして無視します。
との並列回路の合成インピーダンスをと置いて、電源電圧を、変圧器二次側の電圧をとすると変圧器二次側における電圧降下は以下の式で表されます。
電圧降下率を とすると
電動機端子部における電圧降下は以下の式で示されます。
電圧降下率を とすると
計算例
計算条件
- 受電電圧:6600V
- 基準容量:
- 電力のインピーダンス:(基準容量10MVA)
- 高圧引込ケーブル:6.6kV CVT 60sq 200m
- 変圧器:6600V/440V、1000kVA、、X/R比=5
- 始動電動機 55kW、定格電圧440V、定格電流80A、始動電流640A、始動力率0.25
- 電動機の低圧ケーブル:600V CVT 60sq 200m
- ベース負荷500kW、力率0.9
上の設定条件や数字はかなり適当です。あまり突っ込まないようにお願いします。
高圧ケーブルの%インピーダンス
R=0.397 [Ω/km]、X=0.138 [Ω/km](ケーブルのカタログから参照)より、200mで R=0.0794 [Ω]、X=0.0276 [Ω] したがって%Zは以下の値となります。
変圧器の%インピーダンス
1000kVAベースで%Z=5 [%](絶対値)なので基準容量10MVAベースだと50%です。X/R比=5より、%Rと%Xおよび複素数表示の%Zは以下の値となります。
始動電動機の%インピーダンス
始動電動機を の負荷として抵抗%Rとリアクタンス%Xを考えます。負荷の%Zを求めるやり方としては2種類のやり方があります。後者のほうがわかりやすいかと思います。
負荷のR、Xを求めてから%R、%Xに変換する方法
まず、始動時皮相電力Psは以下の値です。
力率 より、RとXは以下の値となります。
よって、 ベースの%Zは以下の値となります。
始動容量と基準容量の比から%Zを計算する方法
始動時皮相電力=487.7 kVAより、電動機の%Zは10MVAベースで以下の値となります。
より、%Zを抵抗とリアクタンスに分けると以下の値となります。
低圧ケーブルの%インピーダンス
R=0.397 [Ω/km]、X=0.110 [Ω/km](ケーブルのカタログから参照)より、200mで R=0.0794 [Ω]、X=0.022 [Ω] したがって%Zは以下の値となります。
ベース負荷の%インピーダンス
ベース負荷を の負荷として抵抗%Rとリアクタンス%Xを考えます。まず、負荷電流は電圧、有効電力、力率より 729 A です。500kW、力率0.9より無効電力は以下の値となります。
負荷のR、Xを求めてから%R、%Xに変換する方法
R、Xは以下の値となります。
よって、 ベースでの%Zは以下の値となります。
皮相電力と基準容量の比から%Zを計算する方法
有効電力 500kWと力率0.9より、皮相電力は 555.6 kVA です。 ベースに換算すると%Zは以下の値となります。
より、%Zを抵抗とリアクタンスに分けると以下の値となります。
変圧器二次側と電動機端子部の電圧降下率
上記で計算したインピーダンスを以下の回路にまとめました。
この等価回路から変圧器二次側における電圧Vと、電動機端子部における電圧Vmotorが電源電圧E0に対していくら下がっているか計算してみます。
複素数の計算は面倒くさいですが Excel の関数を使えば簡単に計算可能です。
計算結果は以下の通りです。
変圧器二次側における電圧降下率は となりました。電動機端子部における電圧降下率は となりました。
6.2%なら許容範囲内ではありますが、16.1%は大きいので、この55kWモータの始動方式は直入れではNG、他の始動方式に変更すべきという結論です。ケーブルの電圧降下を抑制するためにケーブルサイズを大きくすることも考えられます。ただし、それよりは始動方式を変更して始動電流を抑えたほうがベターと思います。
まとめ
分圧計算から電動機始動時における変圧器二次側と電動機端子部における電圧降下の大きさを計算しました。ちなみに本記事では分圧計算でやりましたが、ケーブルの電圧降下計算式を使って電圧降下を計算することも可能です。
大容量電動機の始動時電圧降下率を検討することは非常に重要です。電動機の始動方式をあとから変更するのは大変なので、始動方式に問題がないか事前に確認するようにしましょう。
参考サイト
本記事では上記のサイトの記事を参考に計算をしてみました。参照先の記事は抵抗分を無視してリアクタンス分のみで計算していて、ケーブルのインピーダンスも省略している簡易的な計算です。今回は低圧ケーブルのインピーダンスを考慮することで、電動機端子部における電圧降下を求めました。